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アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

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#217

鬼がこの町の主人公 三州高浜
― 愛知県高浜市

町の景観に軽やかなリズムを与える甍(いらか)の波は、日本を代表する原風景のひとつです。屋根の棟端に目をやれば、いかつい鬼や鍾馗(しょうき)さまが睨みをきかせているのを見つけるでしょう。鬼瓦です。それは屋根の上で火や水から建物をまもり、厄除けとなる祈りのシンボルとして町の風景の中に溶けこんできました。
今回は、瓦の町、愛知県高浜市を紹介します。
高浜市は、名古屋から電車で45分、三河湾の西部に面しています。江戸時代中期、度々江戸の町を襲った火災から町を守るため、瓦葺きが奨励されました。それがきっかけとなり、この地での瓦造りが盛んになったと言われています。それから200年、今も日本の瓦の70%はこの町で作られています。そしてこの町は鬼瓦の産地としても知られ、「鬼師」と言われる40人を超える鬼瓦の職人たちが、伝統の技を伝承し、祈りの形を作り続けているのです。
鬼師たちは、培ってきた経験と研ぎ澄まされた指先の感覚で、その日の湿度、温度、天候を肌で感じ、三河の土を練り、その声を聴き、窯の炎を操りながら、ひとつひとつを形にしていくのです。その形には、それぞれに職人の親方の流儀があり、鬼の形相も様々だそうです。
この地で、創業来99年、鬼瓦を作り続けてきた「株式会社 鬼栄」の三代目社長で、ご自身も鬼師の神谷さんにお話を伺いました。

㈱ 鬼栄の工房内の作業風景

㈱ 鬼栄の工房内の作業風景

工房内に無造作に置かれた試作品、サンプル品

工房内に無造作に置かれた試作品、サンプル品

東京の著名な建築の屋根に乗る鬼瓦や京都の文化財社寺の修復用の鬼瓦を手掛ける仕事では、土づくりから成型、乾燥、焼成、窯出しと失敗が許されない作業で緊張が続き、そして手掛けた鬼瓦が屋根の上に据えられ、堂々とした姿を目にした時、鬼師としての誇りを一番感じるのだそうです。
この町には、日本では非常に珍しい瓦のミュージアム、「かわら美術館」があり、奈良時代から近代まで時代を追って瓦が展示されています。また、市内には4.5kmの「鬼みち」というウォーキングコースが整備され、訪れる人は道沿いの屋根に飾られた鬼瓦や道のあちこちに置かれた瓦のモニュメントを眺めながら約1時間半の町歩きが楽しめます。

名鉄三河線高浜港駅前、鬼広場に置かれた鬼のモニュメント。 東大寺転害門(てがいもん)をイメージしたもの。鬼みちはここからスタートする

名鉄三河線高浜港駅前、鬼広場に置かれた鬼のモニュメント。東大寺転害門(てがいもん)をイメージしたもの。鬼みちはここからスタートする

「鬼みち」の途中にある鬼パークには、鬼師たちの手掛けたモニュメントが並んでいる

「鬼みち」の途中にある鬼パークには、鬼師たちの手掛けたモニュメントが並んでいる

参考
高浜市やきものの里かわら美術館
http://www.takahama-kawara-museum.com/

「鬼みち」を歩いてみよう 高浜市観光協会
https://kankou-takahama.gr.jp/sanpo/77/

鬼みち案内のパンフレット 高浜市観光協会
https://kankou-takahama.gr.jp/book/38/

取材協力
株式会社鬼栄 代表取締役 神谷 寿様

(若尾憲治)