アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

TOP >>  風信帖
このページをシェア Twitter facebook
#82

進化し続ける街・ロッテルダム
― オランダ ロッテルダム

ヨーロッパの街並みを想像するとき、どんな風景が頭の中に浮かびますか? 中世や近代からの建物が並ぶ、歴史的な景色を想像する人も多いのではないでしょうか。しかしオランダのロッテルダムは少し違います。近代的で個性的な建物が多く立ち並び、建設中の施設もいたるところにあります。21世紀になった今でも街が静かに変化し続けている、そんな印象を受けます。なぜロッテルダムは変化し続けるのでしょうか。そこにはこの街ならではの文化と精神が深く関わっています。
19世紀に急速に発展したロッテルダムは、現在ではオランダ第二の都市でありヨーロッパ最大の港を抱える街として重要な機能を担っています。しかし第二次世界大戦ではかなりの被害を受け、街の中心部はほとんどが破壊されてしまいました。街の復興は、物資や資金が限られているなかで短期間で、かつ他都市との差別化も考慮しなければいけないという難しいものでした。しかしこの困難さが、現在のロッテルダムの個性の源流となります。
まず街の再建に必要な人手は移民に活躍してもらうことでまかないました。「部外者」として扱われがちな移民ですが、街をゼロから作り上げていく過程は、彼らを「街の一部」として捉える役割を果たしました。港町という性格上、街自体が外部からのものを受け入れることに元々慣れていたのでしょう。
また都市計画についてはアメリカやロシアを参考に進められました。経済の中心地アムステルダムや政治の中心地デン・ハーグとの差別化を考え、戦前の姿を再現するのではなく新しく斬新な街並みを作る方向に舵を取りました。特に物資・資金の援助を多く行ったアメリカの影響は、建築においても大きかったと考えられます。
ロッテルダムは「不言実行」の精神性を持っていると言われます。短期間で様々な文化背景の人々が一緒になって街を作る必要があったため、口を動かすよりも手を動かそうという状況が生み出したものでしょう。
工事現場を囲むフェンスには「Rotterdam, Make it happen」という言葉がよく書かれています。想いを実現させ、前進していく。多様性を受け入れ、変化し続けていくこと自体が、この街の歴史であり文化なのです。

(佐谷由希子)

街のアイコンの一つ、キューブハウス

街のアイコンのひとつ、キューブハウス

ロッテルダム中央駅

ロッテルダム中央駅

工事現場のフェンスからは「何かが起こる」という雰囲気が感じられます

工事現場のフェンスからは「何かが起こる」という雰囲気が感じられます