雪国・秋田の春は、閉ざされた冬の開放感が弾けるようにイベントが急増します。私が運営するギャラリー・ものかたり近隣で開かれる朝市でも、4月からは町内外から多数の出店者、来場者が集う定期イベントが始まります(1)。
今回のトピックは、そんな盛り上がりをみせる朝市、ではなく、朝市通りにあって50年続く古書店。店主の晴耕雨読生活を取り上げます。
小川古書店店主・小川さん(65歳)は、通りに人がひしめく全盛期の朝市を間近に見て育ち、いったんは県外で働くも、町史の編纂にも携わった父親の経営する店を約25年前に継ぎ、現在にいたります。
定年まで働く同世代に20年先駆けて「プラプラ人生の先輩」になった小川さんが5年ほど前に始めたのが、プランター栽培。初めはトマトなど、ほんの「暇つぶし」だったのが育てる楽しみを覚え、試行錯誤するうちに、気がつくと奥に細長いお住まいの裏手約10坪は畑に様変わりしていました。
現在は生姜、ホウレン草、カボチャにイチゴなど、年間におよそ30~40種の無農薬青果を栽培します。食の自給率が上がったとはいえ、とくに自給自足を目指すでもなく、食用や供物等、用に適った「遊び」はあくまで楽しめる範囲で。世間に出すのはお裾分け程度とのことです。
趣味か生業か、小川さんの“片手間”はそのいずれというより、むしろ生活に根ざして持続可能な表現活動と捉えられるかもしれません。自身の店にある関連本は読み放題、朝市に出る農家さんに教わることも可能で、活きた知識をつねにインプットできる環境があり、習い事でも仕事でもないから感性に合った品種だけを選び、楽しみながら作り続けられる。内的な動機による循環ばかりか、お裾分けした友人も栽培に目覚めるといった波及も起きています。
地域で今起きていることに着目すると、得てして新規性があり、求心力の高い企画やイベントに目が向きがちですが、その全てが継続できるわけでは無いですし、住む人が表現しにくさを感じる地域が無いとも言えません。そこで今回は試みに、積極的な表現活動ではなく、一見、どこにでもありそうな営みにひっそりと息づく表現活動に目を向けてみたのでした。
そこでしかできない取組みの尊さも然り。でも、あえて山居せずとも晴れれば耕し、降れば読むことができる。誰でも、どこでも、いつまでもできる取組みの価値も、また取材する機会が訪れるかもしれません。
(1)五城目朝市は520年続く生活市。下1桁に0、2、5、7が付く日に市が立ち、2016年度より毎月、定期開催日にあたる日曜日を「ごじょうめ朝市plus+( プラス)」として、とくに若者・子育て世代の参加を呼びかけている。
(小熊隆博)