以前ご紹介したアキビプラス五城目エリアの企画「今と昔をつなぐアート」のまとめとなる展覧会「ど思ったば、カケラだった。」展(1/11~28)が終了しました(1)。
「町の未来に何を残したいのか?」を主題に、郷土食行事、町にとっての文化財など、多面的なリサーチから見えてきた五城目を語るカケラを紹介する展示は、ノートのように白紙で覆われた展示壁に、来場者がペンで自由に書き込める参加型になりました。これは、リサーチで取り上げた農夫による「町史に残らない歴史」を伝える意志に着想した形です。明治、大正、昭和の五城目を生きた彼は、機械化とともに激変する以前の農村の暮らしを、子孫に伝えるためだけに驚くべき緻密さで雑記帳に書き遺したのです。
昭和20年以降に全国の都道府県・市町村が指定した文化財は、昭和52年の調査開始時から40年間でおよそ倍増しました(2)。今後も指定件数は漸増する一方、人口減が進む地方では、その担い手・継ぎ手を得ずに失われる文化財もまた増えるに違いありません。土地固有の暮らしの有様、人の生き様など、目に見えない”財産”であればなおさらです。
各地の“財産”をアピールして都市部へ移住を呼びかける地域情報媒体も多く見かけるようになりましたが、今回ご紹介したいのは、秋田で出会った地域・人の魅力を独自の視点で切り取り、むしろ秋田県民に向けて発信する県内在住の二人組「勝手に宣伝組合」です。
日本三大花火大会で有名な大仙市には、花火の他にも地域の方々が気づいていない魅力があるはずと考え、あえて「もし大曲に花火がなかったら?」と問いを立て、町の商店主との対話から紡いだ町案内誌『大曲のはなし』(2015)を発行しました。また、県南部に位置する湯沢市の、異なる職業に就く地元有志24名で素人編集チームを組み、作り上げた地元ネタ本『ゆざわざわざわゆざわざわ』(創刊号:2016年刊行、奮闘号:2017年刊行)。絶世の美女と謳われた小野小町にちなみ、誰にでも発行できる「美人証明書」や、ユニークな看板建築など、メンバーが見つけた「湯沢市のここが面白い」が詰まっています。いずれも明確な発注者のいない、勝手に編み出された出版物。
取材に際し用意されたコンセプトシートによると、デザイナー・澁谷和之氏(澁谷デザイン事務所)、写真家・船橋陽馬氏(根子写真館)が同組合を結成したのは「秋田で、自由に、新しい仕事を作り出したい」という想いから。それは単なる野心からというよりも、『のんびり』(3)などの制作に携わった経験から、受注ありきではなく、地域の価値や問題に主体的に向き合いたいという内的な活動動機が芽生えたことによります。「それを見えるカタチで編集・デザインして世の中を動かしてゆくことがしたい」、そして「そこに共感してくれる人たちに出会いたい」という考えが背景にあるといいます。
クリエイターが自身の表現手段のひとつとして制作する小冊子といえばZINE(ジン)が思い当たります。しかし同組合の活動は今後、出版物にとどまらず、郷土玩具の制作など幅広く展開し、地域の気持ちを動かす“触媒”のような役割を担いたいとのことです。
あるときは身銭を切ってまで、地域の“財産”を地域の人に気づいてもらおうと、「勝手に宣伝組合」が体当たりで試みているのは、伝承を語り繋ぐ先にある表現なのかもしれません。
(1)
AKIBI plus+五城目「今と昔をつなぐアート」
http://akibi-plus.jp/page/gojyome2017/
(2)
平成29年現在。文化庁 都道府県・市町村指定等文化財件数の推移による。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/chiho_shitei/kensu_suii
(3)
2011年より2015年にかけて県が季刊発行した秋田からニッポンの「びじょん」を考えるフリーマガジン。
http://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/10617
(小熊隆博)