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#100

「一杯のお茶」が持つ意味
― アイルランド

私が住むアイルランドでは(おそらくお隣のイギリスでも)「a cup of tea(一杯のお茶)」というフレーズをよく耳にします。「ちょっとお茶でもどう?」というのは、日本でもよく交わされる会話ですが、こちらで耳にする「a cup of tea」というフレーズにはもっと奥深いものが感じられます。その奥深さは一体どこから来るのでしょうか。
まず紅茶というとイギリスのイメージが強いですが、ある調査によるとアイルランドはヨーロッパの中で1人当たりの紅茶消費量が最も多い国だそうです(1)。スーパーで売られているお茶の種類も豊富で、紅茶の他にも、緑茶(フレーバーのついた緑茶も!)や様々な種類のハーブティーが手軽に手に入ります。
アイルランドの人たちにどんな時にお茶を飲むかと聞いたところ、誰かが家にやって来た時や誰かとお喋りする時という答えが多く挙がりました。詳しく聞くと、お茶そのものを楽しむというより、お茶を飲む時間やそこでの話題・気持ちを共有している、という印象でした。つまり人との交流の潤滑油としてお茶が存在しているのです。
他にも、ちょっと疲れた時にお茶を飲むという意見もありました。実際、私が勤務先で研修を受けていた時、講師はいつも「ちょっとお茶でも飲んで休憩して来たら?」と言って休憩時間を取ってくれました。ただ単に「休憩しましょう」と言われるよりも、温かい気遣いがあるように感じられました。このように交流のためだけでなく、休憩や気持ちの切り替えにもお茶は活躍しています。
英語には、自分の好みかどうかを表現する「It is(not)my cup of tea」という言い方があります。提示されたものが自分の器(cup)に収まるかどうか、まさに受け入れる気持ちの比喩としてお茶が使われています。来客にお茶を出すのはここにいて欲しいから、休憩にお茶を飲むのは疲れた自分を放ったらかしにしないため。他人やちょっと疲れた自分を大きな心で受け入れて、温かいお茶を差し出す。「a cup of tea」に込められるその人の包容力が、奥深さを生むのです。アイルランド人がどこでも声を掛けてくれるのは、小さな頃からこうやってお茶を通して人々を受け入れて来たからかもしれません。

(佐谷由希子)

(1)
参考文献

各国1人当たりの年間紅茶消費量
https://www.statista.com/statistics/507950/global-per-capita-tea-consumption-by-country/

アイルランドはヨーロッパ1の紅茶消費国
https://www.thejournal.ie/ireland-tea-caffeine-europe-consumption-2211040-Jul2015/

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