私たちの町には美術館がありません。
美しい砂浜が美術館です。
(砂浜美術館リーフレットより抜粋)
高知県黒潮町にある砂浜美術館は4kmの砂浜を空間に見立てた美術館です。建物はありません。もともとあるもの、見えるもの、漂流物、砂浜で遊ぶ子ども、季節、時間、空気をまるごと作品だと考え、訪れる人それぞれが頭の中に空間を描く美術館です。
高知を拠点に活躍しているデザイナー、梅原真さんが提唱したコンセプトと、全国からの公募作品をプリントしたTシャツが砂浜いっぱいに広がる「Tシャツアート展」の写真に出会ってから、いつか行ってみたいと思っていた砂浜美術館に行って来ました。
ご存知の方も多いと思いますが、梅原さんは一次産業にデザインをかけ合わせることで新しい価値をつくり、地域の風景を残していく活動をしています。
今回の高知行きは梅原さんがコーディネートする「川から学べ しまんと100人デザイン会議」に参加するのが目的で、梅原さんが待つ砂浜美術館へは全国から集まった参加者と貸切バスで向かいました。
実を言うと車内では「いま行ってもTシャツはないんでしょ」とか「え~。いつもTシャツがあるわけじゃないんだ~」と少し不満げな声も聞こえていました。というのも、Tシャツアート展は毎年5月の開催なのですが、私たちが高知を訪れたのは11月だったのです。
でも、そこは梅原さんです。楽しい仕掛けを用意してくれていました。
「みなさん、いいですか。いまTシャツアート展はやってないんです。でも、このクリアファイルをかざしてみてください。ほら、Tシャツがひらひらしてるでしょ? 想像してみてください」
あっ!!! その瞬間、私の心にワクワクのスイッチが入りました。さっそく海に向かってクリアファイルをかざしてみると、Tシャツが気持ち良さそうにひらひらしている風景が頭の中に広がりました。私だけではありません。周囲を見渡すと、あちこちでクリアファイルをかざしていました。これぞデザイン! 透明なクリアファイルとたった一言の問いかけで、私たちのスイッチを想像の世界に切り替えてくれたのです。一方、鳥の目線で砂浜を見下ろすと、クリアファイルをかざしている私たちが作品に見えるかもしれません。何が見えるかはあなた次第。砂浜美術館は頭をやわらかくして訪れたい美術館です。
(姉帯美保子)