アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

TOP >>  風信帖
このページをシェア Twitter facebook
#306

札幌と名古屋、二つの大通公園
― 北海道札幌市、愛知県名古屋市

名古屋で生まれ育ち、現在は札幌で暮らす私は、以前から気になっていたことがあります。「札幌の大通公園は名古屋の久屋大通公園みたい。どちらが先?」と。都心を貫く広い緑地帯が中心軸となり、その傍らにそびえ立つテレビ塔、二つはとても良く似ています。「歴史の長さから見ると造られた時期は名古屋の方が早いよね…」と郷土愛強めで考えていた私ですが、この機会にあらためて調べてみることにしました。

さっぽろ大通公園と名古屋久屋大通公園

さっぽろ大通公園(左)と名古屋久屋大通公園(右)

札幌大通公園の始まりは、明治4年(1871年)に設けられた火防線にあり、都市を南北に分け、延焼を防ぐための100メートルの空地でした。札幌中心部を南北に分ける大規模な空閑地として計画され、延焼を防ぐための防災空間として位置づけられました。明治9年には花が植えられ、13年には豊平館が建設されます。明治44年(1911)には公園造りの先駆者である東京市技師の長岡安平の設計により本格的な公園へと整備され、空閑地は「逍遥地(しょうようち:散歩などをする場所)」へと姿を変えていきました。

札幌市資料館 まちの歴史展示室内展示資料

札幌市資料館 まちの歴史展示室内展示資料

戦時中には食糧確保のため一万坪が菜園となり、終戦後は接収や荒廃の時期を経ます。昭和25年(1950年)に、市民の声に支えられて復旧が始まり、同年には「第1回さっぽろ雪まつり」が開催されます。以後も再整備が重ねられ、緑の配置や芝生の改良、彫刻や遊水路の設置などを通して、現在の姿へと磨き上げられてきました。
一方、名古屋の久屋大通公園は、第二次世界大戦後の戦災復興計画によって昭和24年(1949年)に誕生しました。市域の4分の1が焼失し、名古屋城の天守や本丸御殿も失われた名古屋は、大胆な都市再建を進めます。若宮大通とともに構想された100メートル道路は、防火帯であると同時に来たるべき車社会を見据えた道路網の整備など都市の軸線として設計されました。中央には公園機能が組み込まれ、南北約1.8キロにわたる帯状の緑地が形成されます。近年、久屋大通はPark-PFI事業により再生され、「Hisaya-odori Park」として新たな都市空間へと更新されました。
「どちらが先に造られたのか?」という点においては札幌の方がはるかに早かったのです。札幌の大通公園が設けられた明治4年は廃藩置県が施行された年でもあり、明治政府による国家統一と近代化の元、「開拓使」の設置とともに都市整備が進められました。
両者に共通するのは、都市の危機を契機に100メートルの余白が中央に据えられたという点です。火災への備え、戦災からの復興。その切実な思いが、広幅員道路の軸線空間を形づくりました。

さっぽろ大通公園のテレビ塔(左)と名古屋久屋大通公園のテレビ塔(右)

さっぽろ大通公園のテレビ塔(左)と名古屋久屋大通公園のテレビ塔(右)

では、もう一つの類似点のテレビ塔は「どっちが先?」だったのでしょうか。全国にテレビ放送が普及し、テレビ集約電波塔の建設が決まり、1954年6月に日本初の名古屋テレビ塔が、1957年8月にはさっぽろテレビ塔が開業しました。設計者はいずれも早稲田大学教授の内藤多仲工学博士で、東京タワーも同博士の設計です。約70年もの間、都市のランドマークとして存在してきた名古屋テレビ塔は2022年12月、さっぽろテレビ塔は2025年3月に国の登録文化財に指定されています。
興味深いのは、防災のための空地が、いまや都市で最もにぎわう場所になっていることです。雪まつりやビアガーデン、名古屋まつりといった多彩なイベントが展開され、日常には散策や憩いの時間が流れています。100メートルという幅は、単なる寸法ではなく、都市が自らを守ろうとした距離であり、同時に人々の記憶と祝祭を受け止める器となりました。

さっぽろ大通公園と名古屋久屋大通公園の地図

さっぽろ大通公園と名古屋久屋大通公園の地図

二つの大通は、近代日本の都市計画思想を映し出す鏡でもあります。都市の中心に置かれた大きな余白は、機能を超えて、歴史と自然と人の営みを重ね合わせる場となっています。空の広がりと緑の帯が続くその風景は、札幌と名古屋を静かに結びながら、今もそこに在り続け、私に温かなひと時を与えてくれます。

参考
札幌市資料館 SIAFラウンジ まちの歴史展示室でのスタッフ解説

大通公園「大通公園の歴史と植物」、https://odori-park.jp/history/(2026年2月7日閲覧)。

札幌市「2011-⑨広報さっぽろ」、
https://www.city.sapporo.jp/somu/koho-shi/backno/documents/p2-7_186.pdf(2026年2月7日閲覧)。

日本造園学会北海道支部「北の造園遺産 第2号」、
https://www.hokkaido.jila-zouen.org/gyouji_/kitanozouensisan/kitanozoen_all/2_oodori/Isan-2(Odori).pdf(2026年2月7日閲覧)。

さっぽろテレビ塔、http://tv-tower.co.jp/(2026年2月7日閲覧)。

ようこそSAPPORO「 札幌のシンボル『さっぽろテレビ塔』―登録有形文化財認定で進化し続ける姿」、https://www.sapporo.travel/spot/feature/sapporo-tvtower-cultural-property/(2026年2月7日閲覧)。

公益財団法人名古屋まちづくり公社 名古屋都市センター「ニュースレター 2020.11 vol.117」https://www.nup.or.jp/nui/user/media/document/information/newsletter/r2/nl117.pdf.pdf(2026年2月7日閲覧。)

名古屋市「久屋大通公園(北エリア・テレビ塔エリア) 整備運営事業概要」、
https://www.city.nagoya.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/009/898/leaflet.2022.11.pdf(2026年2月7日閲覧)。

公益財団法人 日本交通公社「美しき日本 全国観光資源台帳 久屋大通公園」、https://tabi.jtb.or.jp/res/230072-(2026年2月7日閲覧)。

名古屋市中区「名古屋テレビ塔」、
https://www.city.nagoya.jp/naka/miryoku/1021146/1033230/1035924.html(2026年2月7日閲覧)。

名古屋市公式観光情報 名古屋コンシェルジュ「中部電力 MIRAI TOWER」、
https://www.nagoya-info.jp/spot/detail/9/(2026年2月7日閲覧)。

国指定重要文化財 中部電力 MIRAI TOWER「当タワーの歴史」、
https://www.nagoya-tv-tower.co.jp/history/(2026年2月7日閲覧)

名古屋市博物館「12 名古屋市の成立と近代産業」、
https://www.museum.city.nagoya.jp/exhibition/owari/theme_12/index.html(2026年2月7日閲覧)。

(古月真奈美)