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アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

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#305

地下の鐘
― 京都府京都市

「京都にはお寺へ至る地下道がある」と聞けば、いかにも京都の街らしいと感じるかもれません。
京都駅前の地下街から、東本願寺前まで延びる地下道を歩いていると、途中でヨドバシカメラの地下入口に差しかかります。その賑わいで気付きにくいのですが、入口に向かって左右の壁には鐘が掛かっているのです。この鐘はヨドバシカメラによって《元気の出る鐘》と命名されています。しかし銘板にも書かれている通り、元は丸物という百貨店の鐘でした。ちょうど三越のライオン像や高島屋のローズちゃん人形の役割を思わせます。

京都ヨドバシカメラ地下入口

京都ヨドバシカメラ地下入口

京都ヨドバシカメラ《元気の出る鐘》

京都ヨドバシカメラ《元気の出る鐘》

現在ヨドバシカメラが建つこの場所には、1920年創業の丸物百貨店がありました。丸物は東京・池袋などの各地に出店を拡大しましたが、後に近鉄百貨店の傘下となり、やがて丸物という屋号は消失しました。1974年に登場した丸物の鐘は、京都近鉄百貨店を経て、ヨドバシカメラが一から店舗を建て替えた今もなお存在し続けているのです。

鐘の紋様

鐘の紋様

鐘の一つには、丸輪の中に「物」が入った丸物の店章と小さな鳥の意匠が施されています。この鳥は丸物のシンボルマークであった鳩を連想させます。それは、平和の使者である鳩が木の葉のように描かれていて、包装紙にも使われた意匠です(註)。丸物と提携関係にあった津松菱百貨店の包装紙や手提げ袋に、現在もこの鳩を見ることができます。

津松菱の手提袋と包装紙

津松菱の手提袋と包装紙

ただ、鐘の紋様の鳥は翼を広げて動きがあるのに対して、丸物や津松菱のシンボルマークの鳩は静的で装飾化されています。果たして鐘の鳥はシンボルマークの鳩なのか、あるいは全く無関係な鳥なのか、判然としません。いずれにしても、50年前の丸物の装飾物が現在も市中に残っているのは、かつての百貨店が持っていた人々を惹きつける力の大きさと馴染みの深さを物語っているようです。

(註)
近鉄京都店閉店時に配布された冊子(近鉄百貨店、2007年、裏表紙)には、以下のように書かれています。
「丸物のシンボル若い樹”は、お客さまに愛され、お客さまとともに発展することを願い、平和の使者鳩”を形どった葉の茂る樹が、地元に根をおろす姿をイメージして、デザイナー魚成祥一郎氏によってデザインされました。」

参考
京都近鉄百貨店総務本部総務部編『株式会社設立五十周年記念社内誌』京都近鉄百貨店、1985年。

(三木京志)