カンボジアに暮らしていると、一日に何度もクロマーを目にします。クロマーはカンボジアに伝わる万能布。日本の手ぬぐいと風呂敷の両方の機能を兼ね備えたような便利さといえば伝わりやすいかもしれません。シンプルな格子柄の布が街じゅうで、いろいろな使われ方をしているのです。

身に着けるだけでなく、敷物にしたりタオルがわりにしたり、はたまたお店の日よけにしたりと、市場ではクロマーが大活躍する
綿の平織りでできているクロマーは軽く乾きやすく、カンボジアの生活で幅広い活躍をしています。強い日差しから肌を守るスカーフとして、または水浴びのあとに体を拭くタオルがわりとして。街の市場や路地裏では、お母さんたちが日よけがわりに頭に巻いたり物を包んだり。食堂では布巾がわりに作業台に置かれていたり、木陰で休むトゥクトゥクドライバーのおじさんが汗拭きに首にかけていたり。時には赤ちゃん用のハンモックやスリングになったり。仏日には女性は白いブラウスに白いクロマーをたすき掛けにしてお寺に行ったりと、カンボジアでの生活に欠かすことができないアイテムです。

頭に巻くとき、ふんわりさせるのが女性らしい巻き方なのだとか
なかでも赤と白のクロマーは特に古典的なデザインです。かつてポル・ポト政権下で、黒の農民服に赤と白のクロマーが人民の服装とされていた過去がありました。しかし、クロマーの歴史はアンコール時代に遡るほど古いといわれています。ネガティブなイメージをクロマーの歴史が凌駕するのでしょうか、現在でも赤と白のクロマーは愛され続けています。近年ではお土産としても人気で、カラフルなものやワッペンや刺繍つきのものなども見られます。

市場に所せましと並ぶクロマー。さまざまな色やサイズの違いがあり、お気に入りの一枚を探すのが楽しい。安価なものは化繊の場合もある
カンボジアの象徴でもあり、誰もが自分のお気に入りを持っているというクロマー。2024年にはユネスコの無形文化財として登録されました。クロマーはただの布ではなく文化であり伝統であり、生活の知恵でもあるのです。
カンボジアに来たら、ぜひお気に入りの一枚を探してみてください。旅行中だけでなく、帰国後にも手放せないアイテムになることと思います。

クロマーを織る様子。手織りのクロマーは手触りも柔らかく使い心地がいい
参考
UNESCO, “UNESCO congratulates Cambodia for Krama’s inscription,” Retrieved August 3, 2025,
https://www.unesco.org/en/articles/unesco-congratulates-cambodia-kramas-inscription.
(三浦まり子)