「受胎告知」と聞いて、皆さんはどんな絵画をイメージするでしょうか? 私が連想するのはサンドロ・ボッティチェッリ《チェステッロの受胎告知》です。「受胎告知」はキリスト教の新約聖書における重要なエピソードの一つ、大天使ガブリエルが処女マリアにキリストを身ごもったことを告げる場面で、多くの画家が手掛けています。

日本百景にも選ばれる鳴門海峡
今回紹介する徳島県鳴門市には、数多くの「受胎告知」を比較して鑑賞することができる美術館があります。大塚国際美術館は、1998年に大塚グループが創立75周年記念事業として開館した日本最大級の常設展示スペースを有する美術館で、鳴門海峡を見下ろす鳴門公園内に位置しています。その特徴は「陶板名画」を展示していることです。古代壁画から現代絵画まで、世界26ヵ国、190以上の美術館が所蔵する西洋絵画1,000点以上を陶板で原寸大に再現し、展示しているのです。

大塚国際美術館メインゲート

美術館ロビー
また展示方法にも工夫があります。古代遺跡や教会などの壁画を空間ごと再現した「環境展示」では、その場を訪れたかのような臨場感を味わうことができます。古代から現代にいたるまでの西洋美術の変遷に沿った「系統展示」では、美術史を学ぶように楽しむことができます。時代を超えて多くの画家たちが描いた代表的なテーマを扱う「テーマ展示」では、それぞれの表現の違いを比較することができます。前述の「受胎告知」は、「テーマ展示」の一例になります。フィンセント・ファン・ゴッホが描いた7つの《ヒマワリ》が一堂に会する展示室もあります。
そして、陶板画の特徴は、色褪せないこと、触っても問題ないことです。複製画ですから、原画には及ばないという考え方もありますが、美術書や教科書と比較すると、それぞれの絵画をサイズも含めて大いに味わうことができますし、文化財の記録や保存のあり方としても非常に興味深い取り組みです。名画の新しい味わい方を提示してくれる美術館に、ぜひ足を運んでみてください。
大塚国際美術館
※美術館の規約上、本記事では取り上げられなかった館内の様子はWebから是非ご覧ください。
(海老原仁美)