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アネモメトリ -風の手帖-

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#279

氷の宮殿(アイスパラス)―ウインターカーニバルの花形―
― アメリカ合衆国 ニューヨーク市 サラナックレイク

サラナックレイクはニューヨーク市から北へ480㎞余り、カナダ国境にも程近い人口5,000人余りの村です。その名の通り、村の中心や周辺には湖も多く、長期休暇には観光や避暑に来る人々が見られます。19世紀後半、静養するしかなかった結核患者の療養施設(サナトリウム)が開設されたことで、少しばかりその名が知られた場所でした。
今回は、この地で毎年2月前半に開催されるウインターカーニバルの花形である氷の宮殿(アイスパラス)へご案内しましょう。

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時は1898年に遡ります。かつてこの村に、結核療養の先頭に立っていたトルドー医師も参加した、ポンティアック俱楽部というウインタースポーツ振興団体が存在しました。メンバーの発案でカーニバルがスタートした翌年の1899年に氷の宮殿造りは始まります。俱楽部運営の趣旨は、協働し健康維持に努めることや、厳しい冬の気候を有効活用、つまりポジティブに活用する術を考えていくところにありました。雪に閉ざされる長い冬はキャビンフィーバー(長い冬に家の中で過ごさざるを得ない日々で気分が塞ぎがちな状態。転じて、外出したい欲求の意)にかかる人も少なくありませんが、地域イベントは、友人知人と顔を合わせて共に何かを楽しめるよき機会です。ウインターカーニバル開催や氷の宮殿造りは、俱楽部メンバーだけでなく、地域の人々の精神面へも好影響を与えてきたとえるでしょう。

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この辺りではクリスマスに前後して湖に氷が張り始め、気温の降下に反比例し厚みを増していきます。きっちり手入れをされた機械で大きめのブロックに切り取られた氷は、トラクターやトラック、クレーンを使い運び上げられて、最後は人の手で丁寧に積み重ね宮殿へと形作られます。その時期になると集まる多くのボランティアに支えられ、氷の宮殿は1世紀をはるかに超えて現在に引き継がれてきました。
時に、ここではなぜ「氷の城」とは呼ばないのでしょうか? 戦いの砦であり、敵を遠ざける目的の城に対して、土地を治める主が住み、人を招き入れるのが宮殿です。サラナックレイクの「氷の宮殿」命名には、このような拘りがありました。
ウインターカーニバルは、実はそれに先立つ氷の宮殿造り、遡れば建築計画の段階から始まっているのかもしれません。カーニバルは当初の目的を果たしながら、今年も多くの来場者を迎え大盛況に終わりました。

参考
Tissot, Caperton, Saranac Lake’s Ice Palace: A History of Winter Carnival’s Crown Jewel, New York, Snowy Owl Press, 2022.

Saranac Lake Winter Carnival, “Ice Palace,” Retrieved  February 14, 2025,
https://saranaclakewintercarnival.com/ice-palace.

North Country Public Radio, “Harvesting ice for the Saranac Lake Winter Carnival ice palace, a history,” Retrieved  February 14, 2025,
https://blogs.northcountrypublicradio.org/allin/2014/01/24/some-things-never-change-taking-a-step-back-75-years/.

(福寿美佐)

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