アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

TOP >>  風信帖
このページをシェア Twitter facebook
#274

過去・現在・未来、生命の樹
― 大阪府吹田市

大阪のシンボルとえば、皆さんは何を思い浮かべますか。大阪城、通天閣、道頓堀など、いろいろありますが、私が長年この目で見ておきたいと思っていたのは「太陽の塔」です。実家には、1970年に開催された日本万国博覧会(大阪万博)で、太陽の塔を背景に、おしゃれをした母が人混みの中どこか誇らしげに納まっている写真がありました。

20241223_mEbihara1

大阪モノレール「万博記念公園駅」を降りると、高速道路の向こう、万博記念公園の森林から、ひょっこりと頭を出して、両手を広げて迎えてくれているような塔の姿が目に飛び込んできます。高さは約70メートルで、塔の正面には現在を象徴する「太陽の顔」、頂部には未来を象徴する「黄金の顔」があり、加えて背面には過去を象徴する「黒い太陽」が描かれています。過去、現在、未来を象徴する3つの顔は、ぐるりと一周して眺めると、様々な表情をみせてくれます。

20241223_mEbihara2

印象的なのは外観だけではありません。内部には、生命の進化を表現した巨大なオブジェ「生命の樹」が展示されています。高さ40メートルを超える大樹には、アメーバなどの原生生物から、爬虫類、哺乳類まで、生物の進化の過程を表現した模型が取り付けられています。階段を上りながら、生命の樹を見上げていると、アミューズメントパークにいるような高揚感を覚えました。そして、内壁が赤い鉄の襞に囲まれているためか、生き物の胎内にいるような、不思議な温かさを感じました。太陽の塔を制作した芸術家・岡本太郎は、「人類の進歩と調和」をテーマに掲げた大阪万博において、生命の根源、生態系の中の人類を見つめ直そうとしたのかもしれません。岡本の名言には「芸術は爆発だ。」「人生、即、芸術。」がありますが、太陽の塔の出口には「芸術とは呪術である。」と掲げられていました。大阪のシンボルとして今も強烈な存在感を持つ太陽の塔は、2025年の大阪・関西万博を訪れる多くの人々にも強い印象を残すことでしょう。

万博記念公園「太陽の塔」、https://www.expo70-park.jp/cause/expo/tower-of-sun/(2024年12月23日閲覧)。

(海老原仁美)