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アネモメトリ -風の手帖-

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#270

パリでもっとも美味しい戦い
― フランス パリ

世界中の注目を集めたオリンピックですが、パリ市民がとりわけ熱い視線を送っていたもう一つの大会があります。パリでもっとも美味しいバゲットを決める「Le concours de la meilleure baguette de Paris(最優秀バゲットコンクール)」です。今年で31回目の開催を迎えました。
パンはフランスの国民食。チーズやワインとあわせて食卓に欠かせない存在と言えます。街を歩けば至るところにパン屋が並び、住民の約93%は徒歩5分圏内に少なくとも1軒のパン屋があるという店の多さです(註1)。数多ある選択肢からお気に入りを探すのは楽しい反面、数が多すぎて選ぶのが難しいという悩みもあります。そのため近所に大会の入賞店がないか、パリ市民たちは結果を毎年楽しみにしているのです。

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対象となるバゲットは厳密な基準を満たさなければなりません。長さは50~55センチ、重さは250~270グラム、小麦粉1キロあたり16.8グラム程度の塩。そして、審査は表面の焼き加減・味・白い断面の見た目・香り・形の5項目によって評価されます(註2)。今年は173本のバゲットが審査されました。
栄えある優勝の称号に輝いたのは、パリ11区にある「Boulangerie Utopie(ブーランジェリー・ユートピー)」。実際にお店へ行きバゲットを買ってみました。

地元住民や海外からのBoulangerie Utopie。観光客で賑わっていました

ブーランジェリー・ユートピー。地元住民や海外からの観光客で賑わっていました

天然の酵母と厳選した小麦粉を使い焼き上げられたバゲットは美しいキツネ色で、一口ちぎって食べてみると表面はカリっ、中はモチっと弾力があり、噛みしめるごとに小麦の香ばしい匂いが口いっぱいに広がります。
本コンクールの優勝特典は賞金4000ユーロ。そして、フランス大統領府・エリゼ宮殿へのパン公式サプライヤーとしてバゲットを納める権利が得られます。宮殿での晩餐会と同じ食事を私は味わうことができませんが、街で一番美味しいバゲットだけは大統領も市民も同じものが食べられます。バゲットはパリ市民に等しく与えられた美味しい権利と言えるかもしれません。

タイミングが合えば、焼きたてのバゲットを買えます

タイミングが合えば、焼きたてのバゲットを買えます

(註1)
apur “Les commerces à Paris en 2023 – Inventaire des commerces 2023 et évolution 2020-2023”、 https://www.apur.org/sites/default/files/commerces_paris_2023.pdf、p.82(2024年10月14日閲覧)。
掲載Webページ:https://www.apur.org/fr/nos-travaux/commerces-paris-2023

(註2)
Le Figaro “La meilleure baguette de Paris se trouve à deux pas de la place de la République”、 https://www.lefigaro.fr/gastronomie/la-meilleure-baguette-de-paris-se-trouve-a-deux-pas-de-la-place-de-la-republique-20240426(2024年10月14日閲覧)。

参考
Ville de Paris “La meilleure baguette de Paris 2024 se déguste dans le 11e arrondissement !”、
https://www.paris.fr/pages/la-meilleure-baguette-de-paris-2024-se-deguste-dans-le-11e-arrondissement-26941(2024年10月15日閲覧)。

(佐藤美波)