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アネモメトリ -風の手帖-

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#258

新宿末広亭、寄席で肩の力を抜いてみる
― 東京都新宿区

「じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ、かいじゃりすいぎょのすいぎょうまつ・うんらいまつ・ふうらいまつ、くうねるところにすむところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポ・パイポのシューリンガン・シューリンガンのグーリンダイ・グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの、ちょうきゅうめいの、ちょうすけ!」
御年80歳という落語家が、早口言葉のように長い名前を繰り返し言い立てます。観客からは、くすくす笑いがこぼれ始めます。ここは新宿末広亭、百貨店のある新宿通りから路地に入って、雑居ビルの立ち並ぶ通りの一角にある寄席です。落語を中心に伝統的な大衆芸能を鑑賞することができます。

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東京都内には四大寄席と呼ばれる演芸場が残っています。上野の鈴本演芸場、浅草演芸ホール、池袋演芸場と並んで、新宿末広亭もその一つです。明治30年(1897年)創業、戦後の昭和21年(1946年)に再建され、現在では都内唯一の木造建築の寄席です。大きな提灯と手書きの木札で囲まれた建物の前に立つだけでタイムスリップをしたような気分になります。木札にはぎゅうぎゅうに詰まった文字で出演者の名前が書かれています。この書体が独特で、縁起がよいように右肩上がりに、お客さんがたくさん入るように余白を小さく、という思いが込められているのです。

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窓口で入場券を買って入ると、ミニシアターのような広さで、正面の高座に向かって椅子席が並んでおり、その両脇には桟敷もあります。高座の上には「和気満堂」と書かれた額がかかっており、下手には床の間もあり、小さいながら奥行きを感じさせる構図になっています。訪れた日は5月の中席(10日毎に出演者を替えて興行しており、中旬のこと)で、1組15分ほどで演目が次から次へとテンポよく変わり、落語を中心に、紙切り、奇術(手品)、講談、曲芸(コマ回し)などを楽しむことができました。最後の演目は落語「試し酒」。飲みっぷりの良さを自慢する男を試す話で、美味しそうにお酒を飲む仕草が繰り返されました。終演後、観客の多くは新宿の飲み屋さんに吸い込まれていきました。

新宿末廣亭
https://www.suehirotei.com/

(海老原仁美)