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アネモメトリ -風の手帖-

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#245

ぬくもりの石―札幌軟石を訪ねて―
― 北海道札幌市

札幌市南区の石山(いしやま)地区では、かつて札幌軟石の採掘が盛んに行われていました。札幌軟石とは凝灰岩の石材で、約4万年前の支笏湖が誕生する火山活動の際、札幌方面へ流出した火砕流が固結したものです。石山地区では明治初期に本格的な採掘が始まり、以後昭和初期にかけて札幌や小樽を中心に、数多くの札幌軟石を材料とした建造物が建てられました。
やがてコンクリートの普及や耐震面などの理由で徐々に採掘は衰退しましたが、採石場跡は現在、人々が憩う公園として整備されています。なかでも1996年に開園した「石山緑地」は、道内在住の造形集団「CINQ(サンク)」が手がけた彫刻作品やオブジェが随所に配置されており、自然と歴史とアートが融合する独特の風景に出会うことができます。一例として、野外ステージとしても使われる「ネガティブマウンド」は、切り立った岩肌を背景に、すり鉢状に掘り下げた軟石のステップでネガティブとポジティブを表現しているそう。どこか異世界に迷い込んだようなワクワクする空間となっています。

石山緑地のランドアートの一つ、「ネガティブマウンド」。おじいさんとお孫さんがかくれんぼに興じる微笑ましい姿も。年に一度、「いしやまキャンドルナイト」というイベントも開催されます

石山緑地のランドアートの一つ、「ネガティブマウンド」。おじいさんとお孫さんがかくれんぼに興じる微笑ましい姿も。年に一度、「いしやまキャンドルナイト」というイベントも開催されます

他方、現存する札幌軟石の建造物は、大切に保存され再利用されるケースもあります。「石山緑地」からほど近い「ぽすとかん」もその一つです。「ぽすとかん」は昭和15年から48年まで郵便局として利用されていた建物で、改装工事を経て、2019年にオープンしました。2階にはカフェ、1階には札幌軟石を用いた商品を扱うお店、「軟石や」があります。「軟石や」の代表商品として人気の「かおるいえ」は、家のかたちの小さな置物で、一つひとつ手づくりで制作されています。液体の吸収力に富む軟石の特性を活かし、精油を滴下して香りを楽しむアロマストーンとしても使用できます。札幌軟石は、灰色のなかに所々白っぽい軽石が含まれています。優しい作風とともに、灰色と白色の淡い色調が醸しだす落ち着いた風合いが魅力的です。

「ぽすとかん」の外観。玄関と屋根のアーチが特徴のクラシカルな建物です。壁面に「石山郵便局」の文字が読み取れます

「ぽすとかん」の外観。玄関と屋根のアーチが特徴のクラシカルな建物です。壁面に「石山郵便局」の文字が読み取れます

「軟石や」の商品棚に並べられた「かおるいえ」。上段の作品は、牛乳からできた塗料(バターミルクペイント)、下段の作品は、「札幌の景観色」(札幌市が定めた札幌の風土イメージから選ばれた70色)が用いられています

「軟石や」の商品棚に並べられた「かおるいえ」。上段の作品は、牛乳からできた塗料(バターミルクペイント)、下段の作品は、「札幌の景観色」(札幌市が定めた札幌の風土イメージから選ばれた70色)が用いられています

加工しやすく保温性のある札幌軟石は、開拓時代の北海道を支え、ひとやものを寒さから守ってきたことでしょう。そして今日まで柔軟な創意工夫により、多様に有効活用されてきました。地域にあたたかみを添える札幌軟石の、より一層の可能性を感じます。

参考
札幌軟石情報発信サイト
https://sapporonanseki.jimdofree.com

石山地区ポータルサイト 石切の里いしやま
http://ishiyama-net.jp

札幌市南区みんなの公園 石山緑地
https://www.mit-ueki.com/ishiyama/

ぽすとかん再生プロジェクト
https://www.postokan.com

(加藤 綾)