沖縄では、昭和初期まで「ンマハラシー」と呼ばれる馬事競技が行われていました。「ンマ」は「馬」、「ハラシー」は「走らせ」という意味です。馬事競技の多くが、速さ、持久力、強さ、技能を競うものであるのに対し、ンマハラシーの特徴は、美しさ、正確さ、装飾を競うところにあります。
競技は紅白二頭のマッチレースで行われ、騎手を乗せた馬は、200メートル前後の平坦な直線走路を、片側の前脚と後脚を同時に前方に繰り出し、次に反対側の前脚と後脚を前に繰り出す「側対歩」で進みます。一定のリズムで進むことが重要視され、「側対歩」が崩れたり、全力疾走してしまうと失格となりました。
馬には垂れや房の装飾をほどこし、騎手は地域の伝統織物の衣と袴に紅白の襷、鉢巻で競技にのぞみました。決勝点の審判は走りの美しさ、正確さ、人馬の装飾を採点し、紅白の手旗を掲げ、勝者を決定しました。各地の馬場で競技が行われ、王府の首里の馬場では国王臨席のレースも行われていました。
ンマハラシーには、「宮古馬」や「与那国馬」など、沖縄在来の小型馬が使用されました。しかし、大正時代になると、軍馬や輸送に有利な大型馬の育成が奨励され、サラブレッドなどの大型馬との交雑が進み、在来馬は減少していくことになります。
馬場も軍用馬の鍛錬場に姿を変え、昭和18年を最後に長く途絶えていたンマハラシーですが、2013年に県内の動物園施設によって復活し、70年ぶりに競技がおこなわれました。現在、年に数回、同園所有の「与那国馬」などの小型馬や、愛好家が所有している在来馬が集まり、レースが行われています。
ンマハラシーについては、公益財団法人馬事文化財団のビデオ、『「悠久の馬」#9~馬と祭り「幻の琉球競馬(前・後編)」』(YouTubeで視聴可)で詳しく紹介されていますので、是非ご覧ください。
沖縄島北部、今帰仁村に残る馬場の美しい琉球松並木からは、観光振興によって現在のイメージが形作られる以前の沖縄の風景を想像することができます。
(儀間真勝)