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アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

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#226

「ないしょ」を売る路地裏の本屋さん
― 愛知県瀬戸市

名鉄の尾張瀬戸駅から瀬戸川に沿って東に20分ほど進むと、通りは、焼道具(やきどうぐ)と言われる陶器の焼成用の部材が独特のパターンで積まれた塀や垣根が並ぶ、窯垣の小径(かまがきのこみち)へと続きます。この通りはいかにも陶器の町、瀬戸らしい風景です。その途中、一本奥へ入った路地に古民家の風情でひっそりと佇む「本・ひとしずく」という小さな本屋さんがあります。

水戸沿いには古い窯元の家やギャラリーが続きます。塀や土留めに積まれた焼き物のかけらがいかにも陶器の町らしい風景です

水戸沿いには古い窯元の家やギャラリーが続きます。塀や土留めに積まれた焼き物のかけらがいかにも陶器の町らしい風景です

店主の田中さんの人柄を感じさせるやさしいロゴに朱色の暖簾が似合います

店主の田中さんの人柄を感じさせるやさしいロゴに朱色の暖簾が似合います

本が好きという一人の女性が地域の方々の応援を得て、2021年5月に立ち上げたお店です。
店主の田中綾さんは、本と人、コトと人、モノと人、そして人と人をつなぐ、本を介した橋渡しの場をつくりたいという想いを、クラウドファンディングサイトで語っています。
100年を超える古民家をリフォームしたという店内には、絵本、文芸書、アート、建築と3000冊ほどの本が、新刊と古本を取り混ぜてジャンルごとに並べられています。田中さんご自身が一冊一冊丁寧に選び、時には常連のお客さんの顔を思い浮かべながら選ぶのだそうです。

接客が終り、次の仕事へ……忙しく一人で切り盛りする田中さん

接客が終り、次の仕事へ……忙しく一人で切り盛りする田中さん

本棚はリンゴ箱なんだそうです

本棚はリンゴ箱なんだそうです

店内には、ユニークなコーナーがありました。「ないしょ文庫」と名付けられています。
そこには田中さんが選んだ本が丁寧に包装され、タイトルや表紙は隠されて並べられています。お客さんは、田中さんが本に添えたキーワードだけを頼りに本を選ぶのです。
田中さんは、選んだ本にきちんと目を通し、キーワードを拾うのだそうです。価格はどの本も550円で、その準備にかかる手間を考えれば、とても利益が得られる仕事ではなく、「本が好きでなければできませんね」とおっしゃる田中さんは笑顔でした。
きっと、この本屋を訪ねてくるお客さんは、欲しい本を探しに来るわけじゃなく、大型チェーンの書店や都心の大規模書店では見つからない「本との出逢い」を求めて訪れるのでしょう。
お店の2階では、春から、ワークショップや企画イヴェントが開けるスペースの準備が始まっていました。その名前は、「ふたしずく」にするのだそうです。
もうすぐ3年目を迎える「ひとしずく」には新しい世界が広がる予感です。

取材協力:本・ひとしずく 田中 綾さん

本・ひとしずく Instagram
https://www.instagram.com/hitoshizuku_books/?hl=ja

本・ひとしずく Facebook
https://www.facebook.com/hitoshizukubooks/

参考
窯垣の小径 Aichi Now
https://www.aichi-now.jp/spots/detail/104/

窯垣の小径 まっぷる
https://www.mapple.net/spot/23001121/

(若尾憲治)