愛媛県の皿ヶ嶺をご紹介します。
皿ヶ嶺は、石鎚山系の西部に位置し、東温市と久万高原町に跨る山です。なだらかな稜線が皿を伏せたような形状をしていることからこの名が付けられたといわれています。
標高1200mを超えますが、約900m地点の上林森林公園までは車で行くことができるため、気軽に楽しめる県内の山です。水の森、光の森、風の森の3つのエリアからなる上林森林公園と皿ヶ嶺は、県が選定した「えひめ森林浴88ヵ所」のひとつです。
愛媛県に引っ越して6年目になりますが、何度も訪れている場所です。登山道では、高齢の方や小学生、ペットを連れた人などが見られ、様々な世代の人が楽しんでいるのが分かります。訪れるたびに新しい発見がある場所です。
上林森林公園の光の森エリア付近には広い駐車場やトイレや洗い場などがあり、ソロキャンプをしている人をよく見かけます。皿ヶ嶺には、様々な登山ルートがあるのですが、初めての方や子ども連れの方などは、ここを登山の出発点にすることが多いようです。
このエリアには、多様な生き物が生息する池があります。
池の中を注意深く観察すると、アカハライモリやマツモムシ、メダカやミズカマキリなど、水にすむ多くの生き物に出会えます。冬には全面凍り、その上を歩くことができる時期もあります。
この池から徒歩5分程度の場所に、風の森エリアがあります。
ここには、風穴があります。
風穴とは、雨水などが浸透した地下の空間に冬の冷気が流れ込み、地下氷が成長し、山の斜面に堆積した岩の隙間から冷たい風が吹き出す場所です。全国各地にみられる現象で、江戸時代から種子や漬物などの貯蔵や養蚕業などで利用された事例もあります。
岩穴から1年中風が吹き出していて、夏季には、外気との温度差や湿度などの条件が揃えば霧が発生します。辺り一面に冷たく白いもやがかかる様子を初めて見た時は、その幻想的な光景に大変驚きました。涼を求めてここを訪れる人も多いようです。
風穴は登山口の入り口でもあり、この日は、ここから山頂の北側下方にある標高約1150m地点の竜神平を目指しました。登山道には、東温市を見下ろせる場所や休憩スポットなどがあります。生息する珍しい植物や景色などを楽しみながら、ゆっくりと歩いて約1時間程度で竜神平に到着することができます。
竜神平は、ブナ林に囲まれた盆地状の広大な湿原です。
湿原を取り囲む平坦な草原が目の前に広がり、標高1100mを超える高地にいるとは思えない風景に驚かされます。以前は、この湿原には小川が流れ、ミズゴケが生えていたということですが、近年は乾燥化が進みクマザサなどが侵食しています。現在も湿地は残っていて、湿地性の植物が自生しています。頭上には視界を遮るものがなく、空が近く感じられ、とても気持ちのいい場所です。ここからさらに20分程で見晴らしの良い山頂に到着できます。
多様な生き物が生息する池や風穴や竜神平など、季節やその日の天候などによって、その表情がダイナミックに変化する魅力的な場所です。当たり前なのですが、珍しい生き物や植物に出会った時の感動や、風穴からの冷気や、眼前に広がる広大な湿原を見た時の驚きなど、その場に行かなければ体験できません。インターネットを介して国内外のあらゆる場所の情報を安易に入手できたり、VR技術や通信技術の発展で、これまでにない臨場感で様々な体験ができることは歓迎すべきことだと思うのですが、その時に、その場所に居なければ体験できないことの価値を改めて感じさせてくれる場所です。
(牛島光太郎)