アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#97
2021.06

未来をまなざすデザイン

2 STUDIO SHIROTANIから広がること 長崎・雲仙市小浜
3)刈水庵との「少しいい距離感」
景色デザイン室  古庄悠泰さん1

刈水庵の初代店長は古庄悠泰(ゆうだい)さんだ。
古庄さんは九州大学でプロダクトデザインを学んでいたが、城谷さんの特別講義を聞いていたく感激し、新卒でSTUDIO SHIROTANIに就職したのだった。刈水庵の店長を務めながら、店舗やグラフィックをはじめ、さまざまなデザインの仕事にかかわった。
古庄さんは2016年に独立。刈水地区を出て、小浜温泉街の一角に「景色デザイン室」をかまえた。

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古庄悠泰さん。2016年の取材時は刈水庵の店長だった

———独立はいろんなことが重なったのがあります。1つにはスタジオのスタッフであまり長く在籍する人がいなくて、そういうものだと思っていたところがあります。城谷さんにも、最初に事務所に入るとき「君を長いこと抱えておくつもりはない」と言われていたんです。独立するなり、また違う事務所に行くなりは君の自由だから、と。
スタッフ時代、いろんな仕事をやらせてもらったし、県外の仕事もさせてもらったんですけど、小浜に根ざした仕事は、規模は小さくても、目の前にそれを見てくれる人がいて喜んでくれるってすごいやりがいがあるなと思ってたんですよね。独立するとしたら、そういう道がいいなと思ったんです。地元の人と一緒につくっていくやり方とか、近いところで相談する相手がお互いにいるとか。そういう距離感、スケール感が個人的には好きだったんです。そういう仕事をより深めていきたいなっていうのもありました。

小浜に根ざした仕事をしたいという古庄さんを、城谷さんは温かく応援してくれた。STUDIO SHIROTANIで受け持っていた仕事をそのまま「古庄くんがやったら」と渡してくれたり、古庄さんの知らないところで仕事の話をつけるなど、独立しやすい状況をつくってくれたのだ。

———独立してからも、城谷さんがいつも言ってくれていたのが「最初は自分ひとりで始めた。自分の意思で歩んできたものが、スタッフが加わってチームになった」と。小浜で独立したのは僕が最初だったんですが、それは城谷さんも思ってもみないことだったんです。(地元の)福岡に帰ると思っていて。だから「古庄くんがこうやって小浜を気に入って、小浜で独立してくれて嬉しい」っていうのは、いつも言葉にしてくれていました。
こうしたほうがいいよ、ああしたほうがいいよってことは、基本的にあんまり言わないけど、いつも温かい目で応援してくれていたのは常に感じてきました。だから軽い仕事は絶対できない。しっかり取り組む姿を見せなきゃ、と思ってやっています。

景色デザイン室をかまえる小浜温泉街は海沿いにある。山側の刈水庵とは、古庄さんいわく「少しいい距離感」がある。小さいまちのごく近い場所だが、海側と山側では人間関係も微妙に違う。古庄さんはここに来てから新しい関係性ができて、仕事も広がったという。

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入り口のアールをはじめ、1階と2階をつなぐらせん階段など、バブル時代の名残のある3階建てのビル。城谷さんの実家であるシロタニ木工に改装を依頼し、大工さんと相談しながら進めてシンプルな空間に仕上げた。1階はドリンクスタンド「景色喫茶室」、2階が事務所「景色デザイン室」。古庄さんが仕事をしている姿が窓から見えるため、ふらっと立ち寄る住民の方も多いという