2)手のひらにのるギフト ものに光を当てる
店にディスプレイされているのは、なんとも愛らしいものばかり。たとえば、ZENBIの入場券についてくる、菊のかたちをした小さな和三盆糖「小菊」。鍵善良房を代表する伝統的な干菓子「菊寿糖」をひとまわり小さくつくってある。菓子だけでなく、木々の葉っぱをかたどった布のブックマークや携帯用の裁縫セットなど、いずれも小さい。サイズも含めて、かわいいのだ。
———Zplusは「手のひらにのるギフト」ということでやっています。実家が骨董屋なんですが、生活のなかでわたしたちが普通に集められるものを扱っていて。母は豆皿をコレクションしていますし。わたしも自分が買えるというと、手のひらにのるくらいのものばかりで。
人にものを差し上げることも多いので、鞄のなかに入れておけて、気兼ねなくぱっとお渡しできるものといったら、小さなギフトやな、と。
手のひらにすっぽり収まる愛おしさ。どれも洗練されているうえ、質の高さにも驚かされる。和三盆糖の「小菊」は、指先にのるほどの小さな一粒に、花びらの重なりが繊細に表現されている。新たに彫りおこした、ごく小さな木型に、徳島特産の和三盆を入れて、押し出す。職人の高い技術と経験があっての菓子は、工芸品のようでもある。
永松さんがつくり手と考えたものも、磨きぬかれた手仕事ばかりだ。道具類であれば、使う立場から機能性を考え、シンプルに仕上げてある。たとえば、携帯用の裁縫セット「いろはりふくろ」は、針と糸巻き、はさみだけ。中綿入りの木綿の袋が針山にもなる。
そのひとつ、ひとつの仕事がこまやかなのだ。袋は「染司よしおか」に依頼し、表裏の色を変え、10種類を制作。平安時代の植物染めの手法を現代に甦らせた色は、はっとするほど鮮やかながら、落ち着きと品がある。
ニードルケース(針入れ)と糸巻きは、金工作家の内田麻衣子さんに依頼。鍵善の鍵の紋をイメージしたデザインで、真鍮をひとつひとつ糸鋸で切り出し、磨いて表情をつけてもらった。針とはさみは、400年以上の歴史を持つ京都の老舗のものだ。
使いやすく美しい、楽しい道具。Zplusのラインナップは、長い年月のあいだに培われてきた、層の厚い京都の文化の一端を映してもいる。
———「ものに光を当てる」と言ったらいいのかな。つくった人や職人さんはもちろん素晴らしいんですけど、「誰それがやった」というよりは、ものそのものの魅力が伝わるほうが意味があると思うんです。人と人をつないで、できあがった「もの」の力。
商品を打ち出すにあたっては、昨今は「人」を前面に出すケースが多いように思う。誰それプロデュース、誰それ作、というように。作家の優れた技術とセンスや、伝え手の審美眼などは、たしかにわかりやすいセールスポイントになる。
しかし、Zplusはそれとは異なる道筋で手仕事の世界を伝えようとしている。商品をつくる要素のひとつ、ひとつに豊かな背景があるが、その打ち出し方は、作家や制作のストーリーに頼りすぎない。目で見て、手にとって伝わる仕事の美しさと深み。置く場所や、ディスプレイのしかた。いくつもの文脈から、ものがいきいきと輝きだすような工夫を感じる。