アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#94
2021.03

文化を継ぎ、培うということ

2 身の丈の関係性 手のひらのものづくり 京都・祇園町
1)ここにしかない、京都ならではの手仕事

Zplus (ジープラス)は、ZENBIと向かい合っている。展示を見てまわって外に出ると、ガラス扉の向こうに明るい景色が見え、自然とドアを押したくなる。ZENBIの離れのような感覚だ。
やわらかな白の店内は、光がきれいにまわり、開放感がある。さほど広くはないのに、ガラスのドア、そして表側と奥の相対する窓の抜けがあるからだろうか。その空間に、商品がゆったりと置かれている。赤がぱっと目に入ってくる。それも、黒田辰秋作品の赤漆のような、落ち着きと品のある朱赤。ZENBIで展示されている辰秋作品のポストカードや図録はもちろんのこと、他の商品も朱が効いている。
Zplusのディレクターは永松仁美さん。ZENBIの向かいにあるギャラリーショップKYOTOの店主である。生活のなかの工芸品を中心に、アンティークと現代作家を取り合せるなど、独特の視点でものを見せたり、企画展などを行なっている。

3L1A2871

永松仁美さん

———5年前に始まった、ZENBIをつくるプロジェクトにコーディネーターというお役目で参加し、お手伝いさせていただいてきました。そのなかでミュージアムショップをどうするかも話し合ったのですが、ここでしか買えない、京都ならではのもの。そして、工芸に関係するものを扱うショップを併設するのが一番自然では、となって、プロデュースを任せていただくことになりました。

「ここでしか買えない」とは、新しくつくるオリジナルになる。それはまた、黒田辰秋と鍵善のものづくりがそうであったように、高い技術とデザイン性が必要となってくる。
鍵善当主・善也さんをはじめ、かかわるメンバーの思いに耳を傾けながら、永松さんは「ここでしか買えない」ものを見いだしていった。

———「ここでしか買えない、京都ならでは」というのが、自分がこれまでテーマにしてきた、生活に寄り添う「お誂え」とも重なったんです。京都では、半径数キロ圏内で素晴らしいものがつくれる。そういう面白さのあるまちだと思います。量産するとか、すぐにつくれるものがあるなかで、あえて、時間かけてものをつくる喜びを発信できる場所ではないかと。

自分の望むものを注文して、つくってもらう「お誂え」。そこには、注文する人と伝え手、つくり手いて、互いの信頼関係のなかでものづくりが進む。こと京都では、精緻な技術の手仕事が脈々と受け継がれ、さまざまなかたちで生かされてきた。
永松さんには、父や母についてシャツや着物を注文に行ったり、受け取りに行ったりした子どものころの記憶がある。どうしてわざわざ出かけ、こんなことをするのだろうと思っていたという。永松さんの両親はお洒落だったと思うが、その世代にとってはまだ、既製服などを買うよりは、手間ひまかけて誂え、長く使うことがむしろ当たり前だった
永松さんが憶えている「お誂え」は、良いものをつくり、大切に付き合っていくことにもつながっていると思う。だから、十数年前、自分の店を始めたときに誂えを意識したというのは、とても自然な流れかもしれない。

では、Zplusに並ぶのは、どのような商品だろうか。

3L1A6092

3L1A6459

改装のディレクションも永松さんが行った。心がけたのは「入りやすい、居心地が良い」こと。棚はいずれも樹輪舎の八十原誠さんが制作。かろやかで、ちょうどよい存在感だ / 一番上は彫刻家・樂雅臣さんのオブジェ。樂さんとは他の商品の企画もすすめているそう