3)消費社会の外に出るしくみ サイネンショー2
松井さんがサイネンショーの作品をつくる場所は、拠点のひとつ、京都府北部の久美浜である。窯はおもに自分たちでつくった昔ながらの穴窯で、燃料は久美浜周辺の家屋を解体して出た廃材を、釉薬は久美浜で養殖され、廃棄処分となった牡蠣の貝殻を焼いたものを一部もちいる。サイネンショーによって、捨てられるものとエネルギーの循環を生み出しているのだ。
——震災の後に考えるようになったのは、エネルギーを何から、どこから得るかということです。家一軒の解体材を使ってみたら、5回窯焚きができました。
日本のものづくりって、陶芸もそうやけど、人間が自然と一緒じゃないとできないものなんですよ。今までは自然からどう搾取するかってことだったけど、これからの時代は共生、自然とどう生きていくか。もっというと、いかに自然に負荷をかけずに、どうやって自然に返していけるかを考えないといけない時代だと思うんです。
だから古い陶器を焼きなおすことは、新しい陶器をつくること以上に新しいことやと思うし、その燃料に廃材を使うのはごく真っ当とも思う。廃材は使えるようにしなかったら、ゴミとして処理されるだけでしょ。それにはものすごく処理代がかかるんですよ。
けれど、ゴミでも美しいものにする技術がアートだから。古民家の解体材を燃料として、古い焼きものを材料として、新しい焼きものを組み立て直したらそれはアートじゃないですか。現代のアートとして必要なのは、自然に対してどう向き合うかという姿勢と距離の取り方だと思います。
ものとエネルギーの循環は、日本の風土とものづくりにも深く関わってくる。サイネンショーは消費社会の枠組みのなかにとどまるのではなく、そこから外に出るための「しくみ」のひとつの表れであり、スケールの大きな試みなのである。
一汁一菜の器プロジェクトでもそうだったように、サイネンショーでも「交換会」が行われた。サイネンショーしたカップと、持ち込みの「不要陶器」を取り替えるという催しだ。貨幣を介在させずに、ものを循環させていく。それもまた、新しいしくみをつくっていくうえでの実験なのだと思う。