5)まちとつながり、ともに育つミュージアムとして
2016年の多治見市モザイクタイルミュージアムの開業まで、今後もプレ展示を含めさまざまなイベントが予定されていく。藤森氏と路上観察学会を取り上げた第1回目のプレ展示に続き、第2回プレ展示では、膨大な種類のタイルを生産し、組み合わせの工夫を凝らしてきた商社の創意工夫の一端を中心に紹介する展示「モザイクタイル 作り手、使い手 展」を開催した。藤森氏による講演会と、設計プロセスのスケッチの紹介も同時開催した。第3回目のプレ展示では、海や川に漂流してきた陶片の柄を抽出、再構成することで新たな模様をつくりだす作品を発表してきた2人組のアーティスト「グセ アルス」とタイル工場とのコラボレーションによる展覧会が行われる。
もちろん「プレイベント」は展覧会にとどまらない。「地域のひとの意識に多治見市モザイクタイルミュージアムはまだまだ浸透していないな、というじれったい思いもあります」と率直な印象を語ってくれる村山さん。地域のひとたちとともに、タイルのあるまちの風景を再発見するために「まちかどタイル観察会」というまちあるきを開催し、今後も断続的に開催したいと考えている。
——地元の参加者の方から、「今まで知らなかった」「見ているはずなのに気づかなかった」といった声があったんです。自分たちがタイルに囲まれていることに気づかない世代が増えてきたんでしょうね。一度タイルに注目してみると、それまで自分たちが過ごしていたまちなみがまったく違って見えてきます。これからも地道にまちあるきのイベントを企画していきたいです。
また藤森氏のアイデアで、多治見市モザイクタイルミュージアム建設敷地内にある公衆トイレの壁にタイルを貼るワークショップも開催予定だ。
タイルは焼きものであり、土からできている、ということに気づかないひとたちが増えている。逆に言えば、それを実感する機会が少なくなっている、ということでもある。そんな状況のなかで多治見市モザイクタイルミュージアムが果たす役割は重要だろう。ひとびとが自身の暮らしを改めて見直すための、より積極的な取り組みが求められる。ただ、先に聞いたまちあるきに参加したひとたちからの気づきの声からは、動き始めた取り組みが小さいながらも芽を出しはじめていることを示しているようにも感じる。
今後の展開について、村山さんはこう語ってくれた。
——資料をきっちり登録して、できるだけ公開できる情報は公開して、見たいひとに見せられる体制をつくりたい。資料的にも産業的にも、タイルのデジタルアーカイブの必要性を感じています。それからインターネットやSNSの活用。できるだけ、ミュージアムのなかで納まるのではなく、ミュージアムが中心になって、まちなかにタイルの見どころを増やしていくことで、笠原や多治見のまち全体を巡るような取り組みにひろげたいですね。
村山さんは続けて言葉に力を込めた。
——タイルを使っている建物は、近代のものから振り返って見ると丁寧につくられているものが多いんですね。そしてそれがきちんと残っている家は、丁寧に住まれてきた印象を受けます。自分の住んできた空間に対する愛着を体現しているというか。いまタイルを気にしているひとって少ないと思うんです。まちや建物に貼られているタイルひとつをきっかけに、そのまちに愛着を持てるようになると、まちはもっと楽しくなるんじゃないかなって思うんですよね。