4)改修の跡を残す、重ねる
京都・きんせ旅館 2
安達さんが改修を依頼したのは、京都の建築事務所エキスポだった。旅館だった頃に椅子の修復・張り替えを依頼していた村上椅子さんからの推薦である。かつての独特な空気感をできるだけ生かし「残せるところは残そう」という方針のもと、最低限の改修が行われた。
——玄関入ったところのタイルは当時のもので、ちょっと上がったところのモザイクのタイルはエキスポさんと入れたタイルです。もともと絨毯敷きだったのでその張り替えを提案してくださっていたんですけど、1階は全部土足が良かったのでタイルにしたいです、と。僕からの希望はそれくらいでしたね。
「そこにあったものを発見しようとするかのように作り上げていきました」と山根さん自身が当時のモザイクタイル施工を振り返りながら書き残している通り、どこまでが古く、どこからが新しいのか、その「継ぎ目」がほとんど分からない。かつてダンスホールとして使用されていた一階の洋間は、現在はカフェバーに。新たにつくられたバーカウンターにもレンガタイルが使われているが、あたかも「そこにあったもの」のように見えてくる。
そんな改修作業のなか、エキスポの山根さんから安達さんはこんな印象的な言葉をもらったそう。
——山根さんが、色んな時代に改修された跡が見えるのも良いんじゃないかな、って。それで家具もひとつずつアンティーク調のものを選ぼうとしていたんですけど、そこまでしなくても良いなって思いとどまらせてくれました。今の時代らしいものがあっても良いなと。
旅館として使用している2階にはほとんど手を入れず、かつての揚屋時代の面影が色濃く残っているのだろう。現在、1日1組限定で宿泊客を迎え入れている。来客の大半が海外からの旅行客だ。
こうして新たにきんせ旅館を再開することで、「昔ここに泊まったことあるんだよ。おばあちゃんにお世話になって」という遠方に住む年配の方との新たなつながりもできた。
——泰山製陶所を創設された池田泰山のお孫さんの池田泰佑さんも来てくださいました。ここにあるものと同じレリーフのタイルを見せてくれて「これをつくったのが僕の祖父なんです」って。たしかにあります、って会話をしたことを覚えてます。
若いひとたちが新しくお店を開き始めたこの界隈。「面白いことを始めるには良い場所ですよ。」と安達さん。かつての花街は数百年の時間を経て、いまも残る古い町家やビルとともに、これからもどんどん新しく変わっていくはずだ。