2)デザインはフィロソフィーである 北欧メーカーで学んだ姿勢
作品としては魅力的だが、商品にはできない。
スウェーデンの家具会社オフェクトに、柳原さんは自身の作品をそう評された。しかし、関係はそこから始まったのである。
——オフェクトのために新たにデザインしたいと思いました。その前にコミュニケーションをと思って、できるだけオフェクトを訪ねるようにしたんですね。そうすると、彼らはまず、自分たちのフィロソフィーを理解してもらおうとする。そこから始めるんです。「一緒につくれる環境をつくること」に時間をかけていくんですよ。
最初は通訳を介してやりとりをはかっていましたが、先方から直接やりとりしたいと言われて、無理やり英語でやりとりをするようになりました。
拙くても自分の言葉でコミュニケーションを重ねるうちに、柳原さんはオフェクトのパートナーとして一緒に商品開発をすることが決まった。ストックホルムファニチャーフェアから約1年後、柳原さんはオフェクトのためのソファを提案する。それを見たオフェクト側は、「フィロソフィーに合っている」として、デザインにO.K.を出した。しかし、それですんなり商品化が決まったわけではなく、そこからさらに、一緒にものづくりをするのにふさわしい、フィロソフィーを共有できるデザイナーかどうかについて、さらに1年かけて、詳細な検討が行われたのだった。
——パートナーというのは、単なるデザインの売り買いではありません。
メーカーはつくられたもの、商品を売るプロです。デザイナーはそのものづくりに参加して、買ってくれるひとに届くものをつくって売るんですね。つまり、いっしょにものづくりするパートナーとしてデザイナーを選ぶ、ということなんです。
この考え方で、オフェクトはスウェーデンの家具メーカーのなかでも筆頭に挙げられる企業になりました。ヨーロッパ、とりわけ北欧にはこうした姿勢のメーカーがありますね。メーカーとデザイナーがパートナーとなり、暮らしとものづくりを考えながら、商品開発をしていくという。イタリアにもミラノサローネ(国際的なデザインの見本市)がありますが、イタリアとは少し違いますね。イタリアはサローネで話題となったデザインをフィーチャーするようなところもありますが、北欧は買い手のスパンが違う。自分たちの暮らしに本当に必要なものをじっくりと選びますから、つくる側も売る側も徹底して妥協しないんですね。だから、売る側の企業もパートナーとなるデザイナーは慎重に選びますし、デザイナーの側も、自分を高めてくれる企業と仕事するんです。
柳原さんにとって、「デザイナー」という肩書きは、ものや空間をデザインすることだけを意味しない。自分が何をどうつくるかではなく、いっしょに仕事をするメーカーなどと、「誰に向けて、何のために、どう使うのか」を一緒に徹底的に考えて、必要なものをつくったり、デザインしたりしていくためのものだ。
オフェクトとのやりとりを通して、柳原さんはやるべきことの軸が定まっていった。