アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#31
2016.07

「一点もの的手づくり」の今

後編 RYOTA MURAKAMI オカンとファッション
9)終わりに 純粋に楽しんで、ものをつくるということ

RYOTA MURAKAMIは、母・千明さんの“オカンの感性”を生かし、息子・亮太さんがデザインし制作を行うブランドであった。オカンアート的なものづくりをしてきた母と、モードに憧れてきた息子は互いに「わけがわからならない」と言い合いながらも、受け入れ、認め合うことで、新鮮なテイストのファッションが生まれたのである。
ファッションというと、一部のファッション好きなひとたちのものと捉えられがちだけれど、RYOTA MURAKAMIが目指すところはそこではない。モードの世界にとどまらず、オカンの手づくりの持つ野暮ったいかわいらしさもまたファッションのひとつと捉え、自由なものづくりの楽しさを全面的に打ち出して、服を見たり、着たりすることの素朴な喜びを思い起こさせてくれるのだ。
その姿勢は、前編で取りあげた、行司千絵さんの服づくりにも通じるところがある。大切なのは、楽しんでつくること。行司さんの場合はさらに、その服を着るひとを頭に思い浮かべながら、そのひとらしい服をつくることを何より大切にしていた。自分のできる範囲でおこなう、受け取るひとのことを想う服づくりだ。
いっぽう村上亮太さんの場合は、オカンたちのものづくりを「創造的」と捉えてファッションに取り入れ、ファッションの裾野を広げようとしている。全国にどれくらい、手芸にいそしむ主婦がいるのかはわからないが(相当の数だとは思うが)、その女性たちの手づくりが、若い世代のクリエーションと出会い、何かが生まれていくとしたら、さまざまな可能性がひらけるのではないだろうか。なんといっても彼女たちが、たいへんな熱量と純粋さを持って、手芸に向かっているのは間違いないのだから。
千明さんは、いつか自分の絵を亮太さんが使わなくなってもいいと思っている。わたしは踏み台でかまわないから、と。しかし、そう言いながら、やっぱり絵を描くことは楽しいから続けたいですけどね、と笑う。親子デュオの制作がこの後どのように展開していくのか。千明さんの関わり方がどのように変わっていくのか、また他のオカン的なものづくりとつながっていくのか。RYOTA MURAKAMIのこの先を見ていきたい。

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RYOTA MURAKAMI
http://murakami-ryota-desu.tumblr.com

村上亮太
https://twitter.com/murakami_ryota

ここのがっこう
http://www.coconogacco.com

構成・文:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。

写真:鍵岡龍門(かぎおか ・りゅうもん)
写真家。Chelsea College of Art, BA Sculpture, UK 卒業。2006年、活動開始。書籍や雑誌を中心に活動を続ける。2007年、『春風接人』でCanon写真新世紀の佳作受賞。主な個展に『本の窠』(書肆サイコロ 、2012)、企画展に『日本のデザイン2011』鹿児島編(東京Midtown DesignHub 、2011)、グループ展に『しゃしんわ』(りす写友会・島根県立美術館、2010)など。