5)地元と発展的に関わる(1)
塩山板金工業所
萩野邸の玄関扉は、ブリキの板がパッチワークのように貼り合わされている。ここで過ごす時間が楽しみになる、遊び心のあるアイデアだ。ブリキの出所は、米を保存するためのブリキ缶だ。ところどころに入った押し印は、その名残。能登半島地震で土蔵が取り壊され、捨てられそうになっているのを見つけては、紀一郎さんが譲り受けた。米どころだけあり、どの家のものもドラム缶ほどの大きさがある。ゆきさんがブリキ缶に馬乗りになって切り開いて解体し、輪島市にある塩山板金工業所が扉に仕立てた。
屋根や外壁、雨どいなど、板金といえば家の修理やリフォームが中心だが、塩山板金工業所は『錻力屋(ブリキ屋)』として、ブリキや銅板を使ったアートやオブジェなども制作している。
「オブジェをつくるようになったのは、知り合いから『さすがに板金で麦わら帽子はできないだろう』と言われて、つくってみせたのがきっかけです(笑)。雪深い冬場は屋根の工事ができませんから、技能の鍛錬になるので、うちでは加工品の制作をしています。『技能まつり』の板金部門に出場して、うちの若い衆は優勝しているんですよ。銅板の叩きや絞り、曲げなどの技術を駆使して水差しなどをその場で制作するんです」と、三代目を継ぐ、塩山和也さん。
優れた技術が口コミで広がり、大学の研究所からも依頼が来る。「ジェット機の吹き出し口とか、いろいろなものが来ます。学生のつくった展開図には形にできそうにないものもあって、そう伝えるんだけど計算したらできるはずだって。やってみたけど、そのときはやっぱりできなかったね」。麦わら帽子然り、さまざまなオブジェを展開図から起こし、腕を磨いてきた、塩山さんらしい裏話だ。好奇心旺盛にものづくりに向かっていることが、会話の節々から伝わってくる。