6)反応触媒でありたい
2000年から「建築物ウクレレ化保存計画」を続けながら、伊達さんは新たな建築物との「付き合い方」を試みるプロジェクトを2011年に手がける。岡山県の総社市で現代美術家である岡田毅志さんとの共同によって行った「池上遊覧鉄道」がそれだ。
「池上遊覧鉄道」は、当時使われなくなって長い時間が経っていた故池上泰川邸の魅力を面白がりたい、という地元NPO「ハート・アート・おかやま」の企画が発端になったレジデンスプログラムだ。伊達さんはタイトルそのままに、建物のなかに「架空のミニチュア鉄道」を通すという設定で、かつての生活者にとっても新鮮な目で建物を見直す場をつくりだした。いわば、建築物そのものを「愛で直す」という取り組みだ。
———そこに住んでいたおじいさんが、エアコンの室外機から出てくる水で小川をつくっていたそうなんです。息子さんはあまりいい印象を持ってなかったようですが、実際に小川を通してみるとけっこういい感じだったんですよね。
そうして伊達さんは建物のなかに架空の鉄道線を5本夢想し、駅だけは実物のプラットホーム模型を15個つくって名前をつけた。沿線の観光名所(家のディテール)にも名前をつけ、壁を貫いて走る電車の車窓映像も撮った。一方で、庭に小川をつくったり、庭を剪定して、かつての庭の再現を試みたり。スタンプラリー、名所案内、茂みから出てくる昆虫を集めた図鑑など、付随して作成した印刷物は細部にまでこだわった。
建築物からウクレレをつくる、ということから、建築物全体を使ったインスタレーションを行い、記憶される部分部分を見せていくことで建物を愛で直すというプロジェクトへ。ひととひと、ひとともの、ひとと場所との間に立って橋渡しを行うような取り組みだ。伊達さんは自身の役割をどのようにとらえているのだろうか。
———僕は反応触媒でありたいと思っています。つながるとは思われていなかったところを結ぶ。忘れ去られていたものをふっと出す。出し方は、文章、写真、木工、絵、クラフト、などなどあらかじめ明確には決めていませんが、最後にかたちにするというところに一種の作家性があるのかなと思いますね。
形式的にはひとつの古民家活用の方法を示したようにも見える伊達さんだが、必ずしもこの建物の保存を強調したかったわけではない。むしろ「最後にこの建物にこれだけのひとが関わってくれたから十分だな、といろんなひとに思ってもらいたかった」と、そのときの思いを語ってくれた。