7)周縁を見せる 瀬戸内生活工芸祭2
2014 瀬戸内生活工芸祭 女木島作家プログラム「暮らしのなかの有用と無用」展を企画。作品もよかったが、作家同士が深く関わり、先に繋がる展覧会となった。オフィシャルブックとして「生活工芸の時代」刊行(共著・新潮社)
第2回目のテーマとして、三谷さんは「周縁」を選んだ。1回目の中心に対し、「これも生活工芸」という表明であった。
——辺境はいちばんエッセンスが出ると思っているので、これ以上いくと、工芸じゃなくてアートになってしまうような、ぎりぎりの5人を選んだ。前回の「中心」も今回の「辺境」も、どちらも好きな人たちで、僕の好きな両面でもあるんだよね。それを出せば生活工芸がわかるんじゃないかと思った。別に、生活工芸と言わなくてもいいんだけど。
公募で決める作家は1回目が87名、今回は61名だった。松本では出展者が多すぎて、いつも見きれないことが気になっていたから、ここでは作家と言葉を交わし、ゆったり見られることを大切にしたかった。また飲食も讃岐の食材で、地元中心の内容にした。また三谷さんが“周縁”と呼ぶ作家5人の展示はすべて女木島で。展示の仕方もボリュームも、ようすを見ながら構成していったのだった。
前回との大きな違いはもうひとつある。第1回目は県から900万ほどの助成金があったが、2回目はそれをもらわなかった。お金をもらうということは、内容にコミットされるということでもある。自分たちの思うような「生活工芸」をもっと進めたかったから、2回目は入場料と出展者の募集参加費だけでまかなうことにした。
さて、女木島に出現した、生活工芸の「辺境 / 周縁」はどのようなものだっただろうか。高松に対して、島はそもそも周縁なのだが、そこでの展示は想像以上にのびのびとし、島に溶け込んでいた。
海辺に沿って歩いていくと、自然にはない質感の小さな小屋と、連続したポールが突如見えてくる。FRPというプラスチック素材で制作をするナカオタカシさんが海辺につくりだした、不思議な景色だ。物置小屋や浴場を使って、島の植物の思いがけない表情を引きだしたのは岩谷雪子さん。島を何度も訪れて植物を採集し、ほんの少しだけ手を加えた作品は、ひっそりと息づき始め、ユーモアもはらむ。土の調達から窯づくりまで、すべてを島で行い、土器を焼いていたのは熊谷幸治さん。島の自然と一体となり、一から手づくりしていくすがたは、それこそ三谷さんのいうロビンソン・クルーソーのようでもある。
どの作品も、ゆったり流れる島の時間とおおらかな自然に身を置くことで生まれた、生活の実感から出てきたものづくりではないだろうか。
三谷さんはパンフレットに女木島のプログラムについて、こんな文章を寄せている。
‥‥‥今年は女木島にある6つの古い家を会場にして、6つの展覧会を開催します。そこには暮らしに「有用」で美しいもの、そして「無用」だけれど、こころを解放し、気持ちを楽しませてくれるものが展示されるでしょう。ただ言えることは、そのどちらもが、私たちの暮らしに「必要」なものだということです。
有用なものの裏返しは、アートに近いものづくりとも言えるだろう。彼らは狭い意味でのアートをやろうと思っているわけではないが、実用的なものづくりから、どうしてもはみ出し、にじみ出る部分があるのだと思う。そして、その両面があってこそ生活工芸なのだ。第2回の女木島の展示は、生活工芸のふくらみを体感させてくれたのだった。