アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#24
2014.12

工芸と三谷龍二

前編 三谷さんのものづくり
3)かろやかさと明るさと 三谷さんの「素」になるもの

1981 松本市に工房PERSONA STUDIOを開設 といっても団地の六畳一間  ここでできる事から始めよう、と木のアクセサリーを作りはじめる

木工は性に合っていたし、家族もでき、生活をしていかなければとなったとき、三谷さんは独立して工房を始めた。ただ、「といっても六畳一間」なのだった。大きな道具は持ち込めないし、また木材をストックしておくことも難しい。いきおい「小さなもの」を、ということでブローチを思いついたのだった。
三谷さんはまず、見本を5個だけつくって、当時ブームとなっていた近隣のペンションなどをまわり、注文を取ってまわった。ひとの手も借りながら小木工品をつくり、できたものを車で納めにいく。それで食べる生活を10年続けるのだった。
三谷さんのブローチは、いま見てもとても可愛い。心にうるおいをもたらし、温かく寄り添ってくれるような印象がある。「生活の役に立つもの、必要とされる道具」をつくりたかった三谷さんにとって、本当につくりたいものはこれではない、という思いはあったようだけれど、ブローチもある意味、そこにたしかにつらなっているように思う。

最初は牛や鹿、きつね、馬などの5種類をつくった (撮影 : 三谷龍二)

最初は牛や鹿、きつね、馬などの5種類をつくった (撮影 : 三谷龍二)

1983 家具を作る友人に刺激をうけ、暮らしに関わるもの作りを考える  そうした中からバターケースや木の匙、そして陶磁器のように「普段に使える食器」として、木の器を作り始める

そのころ、全国を見わたしても、木で「器」をつくろうというひとは三谷さんくらいだったのではないだろうか。しかも、木の重厚さを感じさせない、かろやかで、あか抜けた器。器といえば陶磁器であったし、また、木工といえば、民藝の家具のような、どっしりとした意匠がほとんどだったから、とても新鮮なものづくりであった。
三谷さんのこの感覚はいったい、どこからやってきたのだろう。
つくり始めのころに心がけていたのは「捕まらないように」ということだったという。いったい何に? 木彫の古いイメージや意匠に。

……木工だけでなく伝統的な手工芸の技術は、それ自体はニュートラルなものだと思っています。用い方次第で、どのようにも時代の意匠に合わせて変われる可能性を秘めていて、一見古くさく見えるものであっても、表面の古い意匠を削り取りさえすれば、古い柱に鉋をかけた時のように真新しい生地を見せてくれるはずです。
しかし技術を時代の意匠と切り離して「自由にものを見る」ということは、口でいうほど簡単なもとではないかもしれません。技術を習得する時点で、かたちも一緒にからだが覚えてしまうからです。仏像でも家具でも、技術を学ぶ事はかたちを学ぶことでもありますから、技術習得と同時に、意匠も一緒に頭とからだのなかにすっかり刷り込まれてしまうのです。(三谷龍二『工芸三都物語 遠くの町と手としごと』より)

ものをつくるために、これまでつくられたものを見る。既成概念に縛られず、自由によく見る。それはある意味、誰にも弟子入りせず、ひとりでものをつくってきた三谷さんの修業でもあったのだと思う。

もうひとつ、京都のジャズ喫茶「カルコ20」のような、70年代に登場したかろやかな文化も、三谷さんのものづくりに少なからず影響している。三谷さんが好きだという李禹煥に、ポップスの大滝詠一。そのほか版画の山本容子に、芝居の野田秀樹。彼らに共通するのは、その時代を代表するというよりも、時代を超えてゆく、普遍的なアウトプットだ。
三谷さんが「捕まらないように」してつかんだのは、その系譜に連なるものづくりであったと思う。シンプルで素直で、使いやすい「もの=道具」なのに、どこか、心動かされるところがある。
「はっぴいえんどみたいな器をつくりたいよね」三谷さんがいたずらっぽい眼をして言う。大滝詠一のいたバンド「はっぴいえんど」は、それまでの演歌の流れを断ち切って、洋楽的な明るさを持った日本語ポップスの始まりである。今聴いても新鮮で、ずっと聴いていても飽きることがない。もちろん、音楽性もとても高い。
すべて、三谷さんの器にもあてはまることばである。

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(上)白漆は塗るとみるまに色が変わっいく。とてもニュアンスのある仕上がり(下)お盆や大皿類。三谷さんの器はこんなものがあったらいいな、という発想から生み出される

(上)白漆は塗るとみるまに色が変わっいく。とてもニュアンスのある仕上がり(下)お盆や大皿類。三谷さんの器はこんなものがあったらいいな、という発想から生み出される