ファッションは東京から――。これまで当たりまえであった常識が揺らいでいる。
巨大な人口を抱える市場があり、アパレル会社や小売店、デザイナーをはじめとするクリエイター、ジャーナリズムやメディアが集まり、華やかな都市文化が醸成され、多くの人々が活動し、交流する。東京には、流行を発信し、普及させるすべてがある。だから、ファッションの中核となるデザイナーが東京にいるのは自明なことであった。
しかし、わたし自身が京都に住んでいるせいかもしれないが、近年は東京以外の場所で服づくりをおこなうデザイナーが目につく。しかも、関西、名古屋、福岡といった都市圏だけでなく、熊本、静岡、岐阜などの地方都市に居を構える者も出てきた。これはかつてなら考えにくいことだ。
これまでも地方から成長してきたブランドは少なくなかった。だが、その多くは成功すると東京に拠点を移すのが通例であった。それなのに、この不況下にもかかわらず、東京のメリットを捨てて、あえて地方を選ぶデザイナーが登場してきている。
スローファッション、ローカルファッション。前編では地方での制作に、新しい動きを生みだそうとする3人を取りあげた。そこからは産地や工場が衰退していくのを目の当たりにして、若い世代がつなぎ手、伝え手として状況を変えようと挑戦している姿が見えてきた。
後編では、つくり手であるデザイナーたちにフォーカスする。
まず、東京から地方に向かう動きから。東京コレクションにも参加したデザイナー、スズキタカユキさんは北海道根室に拠点をつくることを考えているという。そのクリエイティビティが高く評価され、東京に顧客も多いスズキさんが、なぜ根室なのか。また、渋谷パルコのミツカルストアでも取り扱われている、ハンドメイドのユニークな服のブランド、POTTO(ポト)の山本哲也さんは先の原発事故を機に東京から岡山に移り住んだ。実際に地方に移り住んだ経緯を詳しく聞いてみる。
次は、地方でファッションブランドをするには何が必要なのか。京都で20年にわたって活動する森蔭大介さん率いるモリカゲシャツは京都でしかつくらない、売らないというポリシーを貫き、全国から顧客を集めている。地方で続けてきた体験から何を得たのか。
東京から地方へ向かうデザイナーと、地方でやり続けるデザイナー。ベクトルの異なるつくり手たちだが、どこか共通するところがあるのか。彼らの経験から、ローカルファッションの現在を考えてみたい。
また特別編として、西尾美也(よしなり)さんに登場してもらった。彼はファッションデザイナーではなく、服を素材とした作品を発表している。服を着ること、つくることの意味を問い直すプロジェクトが高く評価されている若手作家である。アートの視点から、スローファッションを捉えることができるのか、西尾の問題意識に注目する。
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