1)リノベブームのはしりをつくる
「都市芸術工作室 UrbanART Studio」杜昭賢さん1
現在、ジェイミーさんが手がけている事業は、3つの柱がある。
1つは街道美術館(ストリート・ミュージアム)をはじめ、台南・高雄・新竹などで行われる芸術祭やコミュニティアートのキュレーションやデザイン、運営を手がける会社「都市芸術工作室 UrbanART Studio」(以下、UrbanART Studio)。2つ目は、現代美術作品の展示をメインとするギャラリー「加力畫廊(inart・space)」。そして3つ目は、作品展示のほかにパフォーマンスアートを行うスペース「B.B.ART」である。
前号にも書いたとおり、台南の現代美術ムーブメントは3世代に分かれるという。その2世代目にあたるジェイミーさんが、「新生態芸術環境(New Phase Art Space)」というアートスペースを台南市の中心部に開いたのは1992年のこと。目下、経営するギャラリーB.B.ARTと同じく元・銀行だった3階建ての建築を再利用したもので、400坪もの広い空間に現代美術展示・映画上映やパフォーマンスの出来る劇場スペース・アート関連の図書スペースを擁し、古いガジュマルの樹が濃い影をつくる中庭はカフェになっているという複合クリエイティブ施設だった。台南の古民家で生まれ育ったジェイミーさんにとって、古い建築こそがジェイミーさんの美感を育てたものであり、自分の好きな古い建築と現代美術を結びつけて新しい空間を創り出すのは、とても自然なことだったという。
近年の台湾では、日本時代の近代化遺産建築をリノベーションして活用するのがブームとなっている。
代表的なのが、日本時代の酒工場やたばこ工場だった建築を再活用した台北市の華山1914文創園区(華山クリエイティブパーク/1999年)や松山文化園区で、施設内には劇場やライブハウス、人気の講座が開かれる書店やおしゃれなカフェ・レストラン・セレクトショップが立ち並び、日本人観光客のガイドブックにも必ず紹介されている人気のスポットだが、その「ヌケ感」のあるかっこいいリノベーション具合は、日本の建築関係者やアート関係者からの評価も高い。
台南でもかつて製糖工場だった「十鼓製糖工場」や、日本時代のデパート「林百貨」はじめ、数多くの日本時代の遺産建築が蘇って生き生きと利用されている。台湾のこうしたリノベ事情のポイントは、民間企業や所有者による「文化財の保存」と「商業的な利益」のあいだの絶妙なバランス感にある。
そうした意味で、新生態芸術環境は正にそのはしり、ジェイミーさんは現在の台湾リノベブームの先駆者ともいえるだろう。
しかしジェイミーさんのコンセプトは、1990年に入ってすぐの台南では早すぎるものだったのかもしれない。経営上の困難を抱え、新生態芸術環境は1997年にその幕を閉じてしまう。