アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#74
2019.07

まちを耕すアート

1 「ネクストアート台南」を手がかりに 台湾・台南
1)迷路のような路地

廃屋の屋根にねそべる猫に誘われてあてもなく路地のなかを彷徨っていると、走馬灯の影絵のように魅力的な景色がつぎつぎとあらわれる。
日本の植民地時代後期に建てられたであろう洋風の小さいながら瀟洒な屋敷。「鉄窓」と呼ばれる、花や幾何学模様がモチーフとなったポップな鉄格子。レトロな風情を感じさせるモザイクタイル。台南には路地がおおい。それも、京都の街なかにあるような絣生地のようにタテヨコに織られた路地ではない。ひたすらグネグネと、曲がっては二手に分かれていく迷路のような路地。

路地には、漢方薬を煎じる薫りが漂っていることもある。曲がり角に姿を現す廟(びょう:道教や仏教が混ざり合った、台湾の民俗宗教の寺社)は南国の大きな太陽の下に濃い影をつくり、近所の人々が紅椅頭(アンイータウ:プラスチック製の赤い椅子)を出して憩う空間をもたらす。誰が誰のために丹精しているのかわからない、美しい蘭や南国的植生の鉢植えが、通りのあちこちに緑を添え、風にゆれる。

台南の路地は、多民族の歴史と文化が重なり合った「ミルクレープ」のようだ。フォークを入れると、クレープとクリームの層のなかから、美しいエメラルドグリーンのキウイや太陽色に輝くマンゴーが時おり顔をのぞかせる。オランダ・スペインの植民地時代、清朝の時代、日本の植民地時代、そして戦後の中華民国時代。さまざまな国家や民族・文化がこの地にやってきては去っていった、そんな歴史が地層のように積み重なっている。

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台南のまちの魅力は路地にあり、さまざまな時代のパーツや文化が細部に宿る。1番上は廟、大きなものから小さなものまで、台南市だけでその数1600をこえるという。1番下は壁や門のうえにある防犯用の仕掛けで、戦後より多く見られるようになり、だんだんと装飾的になった