4)地域とアートの橋渡しをする
「絶対空間」黄逸民さん2
ギャラリーの上階では、「絶対思塾」というサロンも開かれる。週末ごとに開催される講座で、今年は3つのテーマを設けている。
1つは台南の風土と生活史を知るためのまち歩き。台南の米づくりの歴史という切り口から、台湾で一番最初に発展した台南というまちの特殊性を考える。
2つめは、アート。「前衛」とは何かなど、批評や哲学・文学・映画などを通して、一般的に敷居の高いとおもわれがちな「アート」についていざなう。
3つめは、自主製作映画について。どのサロンも毎回、専門の作家やアーティストを招いて行われ、一般的に難解だと考えられがちな文化活動に、手近で多方向な切り口から向き合う。
黄さんいわく、台南の若手の現代美術ギャラリーは、みんな仲が良いそうだ。それぞれのギャラリーがゆるやかにつながり、同じ方向をみながら、写真や工芸の講座などそれぞれちがう手段によって、地域とアートの橋渡しをするような活動を行っている。
それから、黄さんが「蝸牛巷」を案内してくれた。日は暮れかけて暑さがやわらぎ、時おり路地の壁の暗がりに白い胡蝶蘭の花弁が光り、風がその細い葉をゆらす。
蝸牛巷はもともと、後述する台湾の文学者・葉石濤の作品に出てきた名前で、狭い路地や旧道・古い家屋を指すが、カタツムリが歩いた跡のように入りくんだこの場所にまさにぴったりだ。
古くとも掃除の行き届いた路上のところどころに散見される、カタツムリを模したストリートアートから、地域の住民がこの小路へと注ぐ愛情を見て取ることができる。清朝の時代からある古壁。コンクリートでできた一見すると現代風のアパートの内側には、日本時代の木造家屋も残っていた。この小路自体が、さまざまな文化や時間のモザイクになっているのだ。