4)数字ではなくエピソードを重視する
タグやショーケースで利用者の動向を探り、的確なサービス(=蔵書)を提供するのみならず、この図書館では未来の利用者や潜在的なニーズを生み出すことにも尽力している。
編集者やライターを迎え入れ、利用者の関心を展示へと発展。それをさらに書籍として編集、館内で本づくりができるよう簡易製本機を設置するほか、プロジェクトルームを用意し、地域に開放もしている。10代の利用者優先の「ティーンズスタジオ」では自習も歓迎、年齢層に合わせた本や雑誌を周辺の棚で展開する。市民活動をバックアップし、若者が集まりやすい場をつくることで、蔵書の有効利用をうながしているのだ。
工夫をこらしたしかけが功を奏してか、同館は4月の開館以来半年足らずで、人口16万人の都城市で利用者は延べ60万人に達したという。それだけ聞けば華々しい成果にも聞こえるが、複雑で実験的な「サービス」を管理し、日々その利用者と対話しているのは司書や図書館員たちだ。現場の苦労はいかほどのものだろうか。
都城市立図書館の館長である井上康志さんは、もと宮崎県庁の職員として都市計画や土木に携わってきた。図書館に関しては全くの素人だったという。
———市役所の横に旧図書館があったんですけど、そこの会議室に呼ばれて、「受けてもらわないと困る」と言われたんです。私は「館長はできません」って言いました。そしたら別の職員が「いや、井上さん、館長はやらなくていいよ。副館長もいるし、優秀なスタッフもいるから。井上さんは街づくりをやってくれ」って言ったんです。私はそれまで「街づくりはやったことあるけれど館長はやったことがないのでできません」っていうふうにお断りしていたので、そういうふうに言われて断る理由がなくなっちゃったんですよ。
このエピソードからも、この図書館が本の貸し出しをする場所であるだけではなく、コミュニティスペースとしての役割を負っていることがよくわかる。井上さんの状況観察は客観的で冷静だ。
———4月にここへ来て、5月の連休は物珍しさでひとがたくさん来るんだろうなって思っていたんですけど、つい先週も、そして夏休み明けであっても、出足が落ちないんです。なにかここにひとが集まってくる理由があるんじゃないかって、2ヵ月ぐらい悩んでいるところです。本しかないのに毎日2,500人もどうしてくるんだろうって。なにをしに来るんだろう。でも半年近く経って最近ちょっと思うのは、ひとつは昔ここが大丸で当時ここへ通っていたひとたちがいること。あるいはアクセスの良さですね。そういうことが手伝っていると思うんですけれども、もうひとつは「寄る場所」っていうんですかね、そういう場所がここ10年ぐらいで消えてなくなっていたっていうことなんですよね。