3)ショッピングモールの遺伝子
タグが生み出すのは利用者の知的好奇心や検索ワードだけではない。利用者数の多いキーワードは、情報として管理され、蔵書を購入する際の指針になる。反対に、問い合わせの多い書籍やキーワードをもとに、館が所蔵するレーザーカッターでタグのスタンプが生まれることもある。つまり、タグは利用者の要望を可視化するマーケティング装置でもあるのだ。株式会社マナビノタネの森田秀之さんはこう語る。
———「本棚を編集する」っていうのはよくあると思うんですが、ここで行っているのはそれ以前のことですね。要するに自分たちで「インデックスを編集する」。なんで本が必要かっていったら、そこに対する興味やニーズがあるからなので、まずはそこから考えようと。これまでの図書館は、買った本をいかに貸し出すか、いかに読んでもらうか、だったんですけど、ここでの考え方は本ではなくてニーズが先なんです。
ニーズを生み出すという考え方は、館の各所に見ることができる。タグが設置された棚をさらに奥へと進むとガラス張りの「ショーケース」がある。そこにはテーマに基づいて仕入先から貸し出された、購入前の本が並んでいる。今回訪れた際に展開されていたキーワードは「明治150年」。ここでも十進法はおろか、出版年度もバラバラな明治関係の本が並べられ、利用者はこの小部屋のなかで試し読みし、関心を持った本には栞を挟むことができる。その反応を見て司書は購入書籍の参考にするのだという。
———これまでのテーマはかなり好評で、展示書籍の平均7割購入しているようです。この図書館は予算が潤沢にあるわけではないんですけれども、スタッフにそう聞きました。今回はちょっと難しいテーマなのでわかりませんけれど。ということは、100冊持って来ていただいたうち70冊は購入しているので、取次店にとってもこの労力は決して無駄ではないということになります。
よく売れる商品は自然に仕入れ数が増え、やがてはまとまったコーナーとして展開される。一般の書店や小売業にとっては当たり前のことだが図書館で行われているというだけなのに、なぜこうも新鮮に映るのだろう。ショッピングモールの遺伝子は建物だけではなく、このようなかたちでスピリットとしても受け継がれている。
仕入れた本を、標準型の分類法によって並べ、利用者をじっと待つのであれば、もはや書架に本を並べる意味すらもないだろう。サーチエンジンというインターネット空間で、利用者の能動性は満たされつつあるのだから。