2)インデックスの緩やかな解体
館に足を踏み入れて、まず最初に目につくのが4面に木片がずらりとひしめく木製のラックだ。木片の背の部分にはQRコードとキーワードが印刷されている。「陶芸」「日本酒」「年金」のような一般名詞に「ビットコイン」や「ふるさと納税」、「ブロックチェーン」のような昨今ニュースで取り上げられる新語なども混じる。
木片を取り出すと、裏側はスタンプになっており、QRコードを押印することができる。背の部分のコードはそのままスマートフォンで読み取れるが、スマホを所持していない利用者はノートや紙片にスタンプし、備え付けのタブレットでコードを使用することもできる。例えば「日本酒」のコードを読み取れば、そのキーワードに関連付けられた書籍が、分類を超えて表示される。つまり、これらの木片はSNSなどで多用される「タグ」の役割を果たしているのだ。
従来型の図書館であれば、書籍は図書分類法に基づき分類される。利用者は目的の本を、十進法で整理された分野をたよりに検索する。
例えば日本酒製造に関する本であれば「技術工学」分野内の「製造工業」に分類される。その分類法に照らし合わせれば、全国どこの図書館でも同じように目当ての本にたどり着けるしくみだ。しかし、検索の対象が具体的な1冊の書物である場合には精度の高いシステムではあるが、「日本酒に関してなにか知りたい」という漠然とした好奇心にはうまく答えることができないだろう。
日本酒にあう料理の本であれば十進法では「59」の家政学に、日本酒に関するエッセイであれば「90」の文学、さらに日本文学のなかのエッセイに分類されるが、それらはお互いに隣接することはなく、どちらかにたどり着いた際にもう一方は視界に入らない。しかし、この図書館では十進法を横断するタグによって、料理書からエッセイまで、日本酒をめぐる本が一挙に俯瞰できるのだ。同時にこの木製ラックは検索ワードの見本帖のような存在でもある。目的なく館を訪れた利用者にも、知的好奇心のきっかけを提示してくれる。
都城市立図書館では十進法に基づいた書棚を基本に据えながらも、それを横断するタグの活用によってこれまでの図書館がもつジレンマを解消すべくチャレンジしている。万人に向けて開かれていることを使命とし、利用者の能動性を前提とする分類法にしばられてきた図書館には、探しものをしに来る利用者にとっては便利でも、探していない本を提案することができないというある種の弱点があった。都城市立図書館でおこなわれていることは、検索も提案も両立させ、さらなる利用を促す画期的な第一歩だといえるだろう。