3)さまざまに体感されるアート
同館を訪れた8月、美術館にて開催されていた企画展は「ことばをながめる、ことばとあるくー詩と歌のある風景」というもの。1階は詩人最果タヒのことばを3人のグラフィックデザイナーがそれ
大きくわけて3部構成となった展示を見終えると観客はいつの間にか館の最上階に立っている。そのあいだ階段やクローズドな空間がほとんどなく、ときに図書館部分を通過しながら移動するため、美術館にいる感じがしない。
反対に図書館スペース2階の半分近くを占めるアートブックのコーナーに目をやれば、いわゆる美術書の範疇を超えたタイトルが目に飛び込んでくる。手漉き紙にシルクスクリーン印刷を施したハンドメイド本で知られるインドのタラブックスの絵本がディスプレイされ、独立系出版社から刊行された現代アートとイラストレーションの中間的作家のアートブックが目に飛び込んでくる。優れたアートブックは、それ自体がひとつのアートであることがここの棚を眺めればよくわかる。
キュレーションひとつで図書館の蔵書も、展示物になり得る。絵本やアートブックは複製品であると同時に作品でもある。高価なコレクションを所蔵せずとも、工夫ひとつで企画展は成立するのだ。予算をいかに消化するかではなく、少ない予算や限られたコレクション、空間をどのように使うかという知恵がこの施設にはある。本来それは民間企業やインディペンデントなギャラリーや店の発想であり、武器であったはずだ。それを市立の施設が軽やかに実践していることが健全に思えるのは、自分が書店経営者だからだろうか。