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アネモメトリ -風の手帖-

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#64
2018.09

生活と表現が育まれる土壌

1 東京都世田谷区 生活工房の日常 
4)初々しい日常と再会する

生活工房は、英訳すると「Lifestyle Design Center」である。けれど、竹田さんはLifestyle Design「以前」に着目しているように感じる。つまり、わたしたちの身の回りにあるものごとは何の上に成り立っているか、ということである。そのことについて会話のなかで「歴史の連なりの上に自分が立っている感覚」ということばで表していた。歴史の連なりとは、インターネットで生まれる横のつながりではなくて、土の存在や時空を超えた人類の営みなど、縦の時間感覚を指す。その姿勢は、生活工房のキャッチコピーである「暮らしのデザインミュージアム」の捉え方や、そもそもの「生活」の定義にも及ぶ。

生活工房では、毎年アニュアルレポート(無料配布)をつくって、その年に起きた出来事をふりかえっている。特集主義で、ひとつの読み物として楽しむことができる

生活工房では、毎年アニュアルレポートをつくって、その年に起きた出来事をふりかえっている(無料配布)。特集主義で、ひとつの読み物として楽しむことができる

——「暮らしのデザインミュージアム」という言い方は、ほんとうにふさわしいのかいつも疑問があって、ほんとうは時代に応じて言い換える必要があるのではないかと思っています。
ミュージアムということばは、博物館とか美術館を指しますよね。けれど博物館や美術館は基本的に博物館法というものがあって、収蔵品があることが前提。その収蔵品を保護・管理して、共有していくのが仕事です。でも、わたしたちがミュージアムとして収蔵しているものは、それぞれが普段日常で気づいた問題や発見したことです。それをより多くのひとと共有しながら、もしそれがやはり問題であるなら、解決に向かうためにどのような仲間を得て、どのように協力を仰げばいいのかを考えていきたい。アートやクラフトを手法として用いる場合もありますが、この考え方は、課題解決のためのデザインだと思っています。やっぱりいま社会にある大きな問題も小さな問題も、どこかいいほうに向かうように一緒に考えていきたいと思いますから。
ただ、「生活」ってよくわからないんですよね……。ともすれば「人間が生きることすべて」になってしまう。「衣・食・住」のように簡単に切り離せないし、それ以外にもいろんな要素がありすぎる。そう考えると、生活がよくわからないのだから、生活工房もうまくことばにできなくていいんじゃないの? とさえ思ってきています(笑)。逆に、分類できないものが生活なのであれば、そちらに光を向けていきたい。

この「生活」のわからなさ、「生活工房」の捉え難さは、4名の企画メンバー全員に共通する感覚だという。事業担当は、自分の企画を通してそれぞれの生活工房を探していく。

昨年、新しく入った中村幸さんは今年、『日常を見限らない―音と身体のワークショップ―』という企画を立ち上げた。まちに出て、音を採集しながら生活のなかで聴き逃している音を再発見するワークショップなどを通じて、日常のなかで見落としがちな出来事をもう一度五感を使って味わい直す。それが彼女にとっての生活工房だった。チラシのコピーにはこう書かれてあった「編集された世界を生きる私たちが 初々しい日常と再会する」。
わからなさを抱えたままの一人ひとりの試行錯誤が、地に足の着いた幅広い企画につながっている。手がかりは、生活者としての日々のちょっとした違和感だ。それが、結果的にさまざまなひとがかかわる余白が生まれている理由なのかもしれない。この「わからなさ」と「初々しさ」がある限り、生活工房でのワークショップの種は尽きることがないだろう。だって、この世に生活をしていないひとはいないし、それは終わるまで続くのだから。

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世田谷文化生活情報センター 生活工房
http://www.setagaya-ldc.net/

取材・文:川村庸子(かわむら・ようこ)
1985年生まれ。編集者。ABI+P3共同出版プロジェクト『言葉の宇宙船 わたしたちの本のつくり方』、Art Support Tohoku-Tokyoジャーナル『東北の風景をきく FIELD RECORDING』、復興公営住宅での音楽と記憶のプロジェクト『ラジオ下神白–あのときあのまちの音楽からいまここへ–』、学生とつくる武蔵野美術大学広報誌『mauleaf』など、さまざまなプロジェクトに伴走しながら編集を行っている。

写真:高橋 宗正(たかはし・むねまさ)
1980年生まれ。写真家。『スカイフィッシュ(2010)、『津波、写真、それから(2014)、『石をつむ(2015)、『Birds on the Heads / Bodies in the Dark(2016)。2010年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。2002年、「キヤノン写真新世紀」優秀賞を写真ユニットSABAにて受賞。2008年、「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞。

編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。