2)プラットフォームの仕掛人
梅本さんのインタビューは、東京の表参道の駅からほど近いCOMMUNE 2ndの一角にあるMIDORI.so2 OMOTESANDOで行った。COMMUNE 2nd とは、「食」「学び」「働き」「環境」をテーマにしたコミュニティスペースであり、MIDORI.so OMOTESANDOはシェアオフィスとコワーキングスペースを合わせたような機能を持つ。カフェと見紛うようなこの空間に、種々様々なひとたちが出入りして、パソコンを扱ったり、ミーティングをしたりと自由に動き回っていた。ここに出町座のクラウドファンディングをサポートしたプラットフォーム、Motion Galleryのオフィスがある。
まずは、梅本さんの自己紹介をお願いしよう。
———わたしはMotion Galleryの社員ではなく、フリーランスでいろんな仕事をしています。Motion Galleryの運営サポートもしていますし、同じ代表が立ち上げた株式会社ポップコーンシアター(*)の仕事もしています。出町座のクラウドファンディングの件は、以前からの知り合いだったCAVA BOOKSの宮迫さんから相談を受けて、「わたしにサポートさせてください」と個人の仕事としてお引き受けしました。今、クラウドファンディングのプラットフォームは多様化していますが、Motion Galleryは映画やアート、まちづくりのような文化的プロジェクトに強いので、出町座に合うプラットフォームだと思ったのです。
梅本さんは映画の仕事がしたくて上京。映画雑誌の編集をはじめ配給や宣伝、製作などさまざまな映画の仕事を経験したり、見聞きしながらも、自分の役割がどの場面にあるのかを模索していたそう。その後、映画祭に関わることになり、まだ知られていない若手監督とその作品を世に送り出していく仕事に関わり始めた。
———映画祭で、まだ知られていない、だけど才能あるひとたちを社会に押し出していく仕事に意義を感じたんですね。わたし自身は、新しいアイデアや企画力があるタイプではないのです。だからこそ、そうした力を持ったひとたちをサポートしていきたいと思った。クラウドファンディングのスタッフになれば、映画も映画以外でもそれに近いことができると思ったんです。
クラウドファンディングのスタッフとして、梅本さんがサポートしていきたいものは何だろう。
———大きく言えば、「文化」をつくっていくことだとも思います。出町座も映画体験という文化をつくるための場所ですし、そういうコトを守って育てていきたいひとたちと仕事をしたいと思っています。クラウドファンディングは、ひとがある場所に愛着を持つようになったり、誰かと出来事を一緒につくりあげたりして、プロジェクト終了後もその場所や出来事を守り続けていく。そういう関係をつくり出すことができるんじゃないかと思っています。出町座も、ただお金を払って映画を見て、終わったら帰るというだけでなく、そこに関わっているひとの顔や気持ちがわかる状態で映画をみにいくと、また違う風景が生まれるんじゃないかなって。
梅本さんの話を聞いていると、不思議な想いが湧いてくる。これまでの、コンテンツ産業としての映画は、上映される作品=ソフトが重要であり、世界中どこにでも持ち運びでき、場所によってその価値は変わらないとされてきた。だからこそ、世界的ヒット作品が生まれ、かつ巨大な映画産業として発展してきた。ところが、梅本さんや出町座の面々が語る映画とは、ある地域に密着し、その地域や施設との関係性のなかで価値が変動する。その価値を求める人びとは、単純なコンテンツの消費者ではないようだ。じわじわと世界の在り方が変わっていくような気配がしてくる。
*ポップコーンシアター……Motion Galleryの代表取締役である大高健志が、求人サイト「日本仕事百貨」を運営するナカムラケンタとともに立ち上げた、小規模な映画上映会システムを提供する会社。初期費用がゼロ、入場者数に応じて上映料が発生するかたちで、権利処理されている作品を誰もが上映できる環境をつくる。