2−1)地域づくり 未来を見すえ、自ら動く
レイヤーの厚み 徳島県神山町
(おもてなしの精神で広がるまち 神山 #02、#03)
ここからは、4つのまちや村を取り上げる。
いずれも、過疎と高齢化が著しく、行く末の見えなかった地域である。そこからどのようにして、土地の個性を引き出し、産業や仕事を生み出し、移住者を呼び込んでいったのだろうか。共通するのは、いずれもまちを動かすキーパーソンがいることだろう。ITで知られる徳島県神山町、長いスパンで林業を再生する岡山県西粟倉村、地域再生の代表例として知られる島根県海士町、そしてクリエイターの移住が続く奈良県東吉野村。それぞれのビジョンと展開をまとめてみた。
徳島県神山町は、地域再生の象徴のようなまちだ。人口5,000人余りのこぢんまりしたところに、アートや古民家再生、ITのサテライトオフィスと、いくつものレイヤーがある。すだちと梅が特産の、これといって特徴のなかった地方自治体は、なぜ面白いひとやものが集まるまちに変われたのだろうか。
そのきっかけは、1999年に始めたプロジェクトにある。まちの有志でつくるNPO法人グリーンバレーが主体となって「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」を立ち上げ、国内外のアーティストの滞在制作支援を始めたのだった。小さなまちがアートに着目し、「国外」に呼びかけたのも異色だが、イベントやフェスティバルではなく「レジデンス(滞在)」であるところも特徴的だった。
KAIR を手がけたNPO法人グリーンバレー代表の大南信也さんは、まちの展開をすすめてきたキーパーソンだ。神山出身、大学で東京に行き、アメリカの大学院を修了してから、またまちに戻ってきた。だから、地元民でありつつも、外からの客観的な視点も持っている。大南さんの発想は「未来からの視点に立ち、今すべきことを考える」というもの。そのうえで能動的に、行政などにも働きかけていくのだ。
まちの特性をとらえ、行く先を見る大南さんの目は非常に確かで、その行動力も抜きんでていた。神山での働きかたと生活のありかたを提案して、ひと、もの、企業を呼び込んでいく。「仕事を神山にしにくる」という発想の「ワーク・イン・レジデンス」に、企業を誘致する「IT企業のサテライトオフィス開設」などだ。移住者を募れば、受け入れ先も必要となる。そこで、グリーンバレーが投資して、空き家を再生するプロジェクト「空家町屋」も始まった。ちなみに、サテライトオフィスは2017年4月の時点で、16社にのぼる。
結果的に、神山には多くのひとが移住し、ここで働き、ものをつくったり、アートを生み出している。小さなまちなのにレイヤーが多く、コミュニティはつねに進行形で変わりつづけている。
また、まちの展開においては、ネットでの発信も早い段階から大きな役割を担ってきた。NPO法人グリーンバレーのウェブサイト「イン神山」である(現在は「神山つなぐ公社」と共同)。一見ふつうのようでありながら、見れば見るほど、等身大の神山がくっきりと立ち上がってくる。大南さんは、ウェブサイトでの広報に関して「ありのままを見せること」「どこにでもあるような風景、ということをそのままを表現すること」が肝心であるという。サイトはバイリンガルで、世界からのアクセスも多い。
日本 / 海外、都市 / 地方といった枠にとらわれることなく、来るひとが増えるたび、さまざまな働き方とライフスタイルのヴァリエーションが広がる。それにより、まちはいっそう豊かになっていく。面白いほどに、神山は好循環している。