アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#58
2018.03

これまでと、これからと 2

1−1)ものづくりをつなぐために
エフスタイル あいだの仕事
(エフスタイルがつむぐ、あたたかな循環 #04#05

新潟のエフスタイルは、「製造以外で商品が流通するまでに必要なことはすべてやってみる」女性ユニットだ。ともに30代の五十嵐恵美さんと星野若菜さんは、生まれ育った新潟で、2001年にエフスタイルを設立。それ以来、新潟の地場産業のつくり手に対してデザイン提案から販路の開拓までを行っている。

「わたしたちの仕事は、ゼロからものをつくることでも、斬新なものをデザインすることでもありません。ただ今あるものを生かし、循環させること」

つくり手と使い手、そして売り手のいずれに対しても、誠実なものづくりを行い、流通させること。本来あるべきものづくりと届けるかたちを試行錯誤しながら、探ってきた。
エフスタイルの商品は、衣食住にまつわる生活用品が中心だ。素材の良さと高い技術を生かしてあって、機能的。そのうえ、シンプルで美しい。使い続けて、飽きのこないものが揃っている。

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代名詞でもある「HOUSE doggy mat」。エフスタイルが結成されるきっかけとなった(写真提供:エフスタイル)

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(上から)新潟県五泉市に工場をかまえる「くつ下工房」と共同でつくった、ゴムのない靴下 /

「くつ下工房」と共同でつくった、「ゴムが入いっていないふんわりしたはき心地の靴下」/「立川織物」の亀田縞の風呂敷。すたれつつあった亀田縞を、エフスタイルらしく生かし、新たな魅力を引き出している

2人のつくりかたと届けかたは、ていねいで手間ひまを惜しまない。
生産者のもとに何度も足を運び、技術や製法とその背景を理解して、それをふまえて商品を提案し、商品開発を進める。できあがった商品は一点一点、自分たちで検品して、受注や出荷の作業も行う。北海道から九州まで、各地の小売店で展示会も積極的に行い、お客と対面し、商品の生産背景を伝えながら接客・販売を行う。ちなみに、商品を卸す小売店も自分たちで探し、時間をかけて関係を育んでから取引を始めるようにしている。
それはまた、「製造側が手に負えないことで、デザイナーがやらないような仕事」でもある。つくり手と使い手を結ぶために欠かせない、大切な「あいだ」の存在であり、活動なのだ。
つくり手、届け手にしっかり向き合い、これまで聞かれることのなかった声を聞く。エフスタイルの仕事から、わたしたちはものづくりと流通のあるべきすがたにあらためて気づかされる。

———エフスタイルというチームがあって、つくり手さんも、わたしたち自身も、そのチームに所属しているという感覚なんです。どのポジションを守っているのかわかりませんけど(笑)。だから、上下関係は出さない。みんなが腑に落ちる”真ん中”探す。関わっているひと全員が気持ちよく自分のポジションに集中できる”場”をつくる。そんなシステムづくりこそが、エフスタイルの仕事なのかもしれません。(星野)

———おいしくないのにおいしそうに見せたり、一時的に気分を盛り上げて買わせたり。そういうことが増えすぎていると思う。わたしたちは、まず自分の今の生活で使いたいかどうか、本当に買うのかどうか、という冷静なお客さんの目線で商品を開発します。つくり手さんや売り手さんはもちろん、わたしたち自身が本当にほしいと思えるものを伝え、それを通して誠実なお金をもらいたいと思う。(五十嵐)

各地のものづくりを継続するためには、その「当たりまえ」を今いちど認識する必要があるのではないだろうか。そして、日本各地にエフスタイルのような仕事をするひとが出てきたら、地場産業の状況は変わりうる。

星野さん(左)と五十嵐さん(左)

星野さん(左)と五十嵐さん(右)。細かなこともふたりで話し合う姿が印象的