アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#57
2018.02

これまでと、これからと その1

 

1-2)本を手がかりに 「みんなの、まちの本棚」を循環させる

石巻の本の拠点「まちの本棚」は、ディレクターで建築家の勝 邦義さんが中心となって立ち上げた。ちなみに勝さんはB!B!Sのインタビューシリーズ2回目にも登場している。それぞれの場所で暮らす人々の日常を、本との関わりでどう豊かにするかを考えるなかで生まれた場所は、「いろんなひとがいろんな目的で来られて、長い時間いられる場所にしたかった」から、利用者の反応を見ながら、展示やカフェなど、さまざまな使い方を試している。

勝 邦義さん

勝 邦義さん

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本棚を大きく設計し、一角にクラフトを置いたり、作品を展示したりと、幅広く活動できるように考えぬかれた店内

これからは、本を通して石巻のひとやまちとの関わりをまた違うかたちで持とうと思っている。たとえば病院とか喫茶店の一角など、日常的に本がある場所で、そこの本棚をキュレーションして、本を入れ替えたり、選んだり、貸し出したりというしくみだ。本を循環させつつ、まちに寄り添い、まちとひとに還元しようという、ありそうでなかった「本でひととまちをつなぐ」構想なのだった。

本を手がかりに、仙台で多彩に活動を続けるひとも取り上げておきたい。市民活動を支援する一般社団法人Granny Ridetoを立ち上げた桃生(ものう)和成さんは、シェア型複合施設「THE6「まちライブラリー」的な小さな本棚を設けている。ここがユニークなのは、利用者がよりコミットしたスペースとしているところだろう。まちのなかに私立の本棚をつくるのが「まちライブラリー」だが、桃生さんたちは本を提供するのではなく、本を持ってきてもらってつくっていく。サービスの提供側と受給側に別れるはなく、利用者にコミットしている感覚が生まれることを考えたスタイルだ。提供し利用もして、本をぐるぐる循環させる、まさに「みんなの本棚」である。

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桃生和成さん

それ以外にも、お店やギャラリーなど、まちに小さな私立図書館を増やす「冒険図書館プロジェクト」を手がけ、今後は震災後も宮城に住み、奮闘を続けるひとたちの思いを書籍で伝える「宮城のオリジナルレーベル」の設立も計画している。
桃生さんは、これらのことを一気呵成に実現しようというのではない。むしろその逆で、中・長期的な視点に立って、身近で、継続性のある存在の本を手がかりに、地道にやっていきたいと考えている。
日常で、ひとりひとりにいかに目を向けるか。その手だてとして本がある。
仙台と石巻では、大きなイベントで集客し、ひととまちを活気づけるところから、ひとりひとりに寄り添うような流れがあった。しかし、内にこもるのではなく、ぐるぐると循環している、あるいはしようとしている。ささやかだけれど、心地よい。