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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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2012.12

「本」でつながる、広がる ひととまち

前編 東北の場合、仙台
10)東北を面で見せる 本の物産展「東北ブックコンテナ」

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東北ブックコンテナ2011・秋田編。上から盛岡、仙台、会津、秋田の本と雑貨(写真提供:まど枠)

2009年に始まって、B!B!Sは2012年に4回目を数えた。そこから本が生まれたり、催しが起こったりという動きは、さらに広がってきている。

2011年にイベントのひとつとして発案されたのが「東北ブックコンテナ」だ。盛岡、秋田、会津と東北3県3都市の素敵なもの、おいしいもの、本や本にまつわるものを集めたコンテナ形式の物産展で、各都市の一箱古本市と連動して開かれた。2012年には山形が加わり、4都市をまわった後、東京や京都、鎌倉、軽井沢にまで巡回した。

前野さんは言う。「東北各県でブックイベントが開かれて、仙台というひとつの都市だけでなく大きな塊として、東北の本の動きを面で見せられないかな、と思ったのがきっかけですね。ねぶたや竿燈まつり、七夕まつりと夏にお祭りが連続するように。そこをつなぐ糸として「東北ブックコンテナ」があって、百貨店で各地の物産展をやっているみたいに、本で物産展をやりたいな、と。「東北」とひとくくりにされるけれど、それぞれまったく違う土地柄で、それが一緒に並んだら、共通するところと違いが見えてより面白いのでは、と思ったんです」。

こうして、前野さんのつながりで盛岡、秋田、会津に声をかけ「東北ブックコンテナ」は実現した。それぞれリトルプレスを発行したり、ブックカフェの店主などだ。彼女たちが本やものを選び、県(都市)別のコンテナを埋めていく。セレクトの基準は“独断と偏見”だった。

「選ぶひとの好みでいいと思っているんです。例えば仙台なら仙台に住んでいる誰かの個人的なセレクトで、かえってリアルにまちが見えるんじゃないかなと」。

表面に見えているものを網羅し並べてみても、まちの顔は見えてこない。そのまちに暮らす誰かの想いや好みをはっきり出すことで、まちのリアルは浮かびあがってくる。たとえある一面に過ぎなくても、まぎれもなくそのまちの今だ。

前野さんは、秋田のセレクトブックショップ「まど枠」の店主・伊藤さんから相談を受けた。「まど枠」は郷土出版の取り扱いが少ないから、コンテナの中身をどうしたらいいか、というものだった。それに対して、前野さんの答えは明確だった。「秋田についての本でなくてもいいし、お店に置いている雑貨屋アクセサリーも出したらいいんじゃないかな、と。伊藤さんは本がすごく好きで、その本に対する想いが雑貨に投影されているはずだから、雑貨もどんどん出してほしいし。各県のブックコンテナではありますが、“郷土”にこだわらないでいこう、と言っていたんですよ。大事なのは、秋田に住んでいる「まど枠」伊藤さんの好み。たとえ秋田に関係ない本であったとしても、その本が伊藤さんが店をつくるきっかけになっていたり、伊藤さんにとって大事な存在ならば、その本はきっと伊藤さんの、秋田「まど枠」の空気を持っているんです。伊藤さんというひとをわかることが、秋田というまちをわかることにつながると思います」。

ブックコンテナは各県で大変な人気を呼び、青森も参加予定だ。

こうして、東北では本によるつながりが生まれつつある。仙台の小さなブックカフェから始まった動きが、ここまで大きく育ってきたのだ。誰もが知るようなものではないけれど、何かはたしかに変わってきている。しかし、当の前野さんや仙台の仲間たちは相変わらずだ。共通してずっとあるのは「本でひととまちをつなぐ」ことだ。「これで商売楽になってくれたらいいんですけどね、ぜんぜん変わらない」前野さんがからっと笑った。

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取材・文:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)、『京都の市で遊ぶ』(平凡社)など、共著に『住み直す』(文藝春秋)、『京都を包む紙』(アノニマスタジオ)など多数。

写真:成田 舞
写真家。関西を中心に展覧会等の活動を行う。2009年littlemoreBCCKS第二回写真集公募展で大賞・審査員賞を受賞(川内倫子氏選)。写真集『ヨウルのラップ』(リトルモア)。