アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#54
2017.11

まちと芸術祭

2 札幌国際芸術祭2017の公式ガイドブックを片手に(第2日目)

とっくに15分間は過ぎている。
先を急がなければ。そうしなければ、見る予定の展示を、見逃してしまうからである。公式ガイドブックの「かけあし」「たっぷり」「じっくり」などのプランが毛利悠子の作品の次に勧めるのは、すでに触れたように「10分」ほど歩いて到着する、「NEW LIFE :リプレイのない展覧会」である。「約103分」で「約88分」で「約125分」でこれらを見なければ。次の行程に差し支えるのである。展示をしているのは札幌芸術の森内の、全部で6施設だから、「約103分」で見るとして単純に割り算すると、1ヵ所につき、約17分間となる。ここから最も近いのは、札幌芸術の森美術館である。クリスチャン・マークレー、刀根康尚、鈴木昭男の3人の展示をやっている。17分間を3人で割ると、6分弱。これはあんまりではないか……。
しかも美術館のなかに入るまでが、そもそも、一苦労なのだ。
なぜなら札幌芸術の森美術館の庭の池では、カモがお出迎えしてくれるからだ。

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ここですでに6分間は過ごしちゃったような……。そもそも、会場でもらえる展示マップを見れば、クリスチャン・マークレーの展示は、美術館の個展の規模である。もしカモを無視して美術館に飛び込んだとして、そもそも6分弱で、見られるはずもない。ハンパに見るくらいなら、最初から見ない方が……どうせ俺なんて、まともに時間通り展覧会を見られるような男ではない。そんな器じゃないんだ。国際芸術祭を見るなんて10年早かったんだ!
……とブツブツ思っていたのだが、なんとこのクリスチャン・マークレーの展示は6分以内で見られてしまうのである。初期の映像からインスタレーション、2016年の「実写アニメーション」連作(日本初公開)まで、その全貌がわかるようになっている。全部で14作品。かなりのボリュームであるが、それらは、歩く速度で見られる作品ばかりなのである。作品はといえば、「ガラクタの星座たち」という札幌国際芸術祭2017のサブタイトルに呼応して、廃品(ゴミ)やリサイクルが、扱われている。例えば2016年の作品「Lids and Straws(One Minute)」は地面に落ちたストローとそのフタ(この時点でゴミだ)を、さまざまな地面、場所で撮影し、それをコマ撮りアニメとしてループ上映している。

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その他の5本も同じ調子

退屈すれすれのその作風は、その場で、瞬時に立ち消えになる環境(感興?)をその都度立ち上げる、クリスチャン・マークレーの「即興」的な作風にふさわしい。むろん、かといって破れかぶれのインスタレーションではなく、全体として美しく構成されている。実写アニメーション連作が大きくプロジェクションされる映像の中間地点あたりで携帯電話を並べる(「携帯電話/Cell Phones」)。大画面の「ゴミ」のプロジェクション映像の連作と、旧式の携帯電話の小さな画面にリサイクルの過程(廃棄の過程のようにも見えるが)を映す、その対比の妙。

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ちっぽけな携帯なのに立派なスピーカーを「台座」にして音を鳴ら している

立ち止まってもいいが(面白いから「うっかり」立ち止まってしまうのだが)、これらの作品は、最初から、立ち止まることなく「歩く」ことが推奨されているように見える。毛利悠子の「そよぎ またはエコー」とは逆に、である。スタスタと歩くこと、さっさとその場を立ち去ること、駆け抜けること。むしろマークレーは、分刻みのプランで会場を回っている我々のような観客に向かって、こう言ってるように見える、「お前さん、先、急いでるんだろ」と。