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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#54
2017.11

まちと芸術祭

2 札幌国際芸術祭2017の公式ガイドブックを片手に(第2日目)

ここからは、この8月28日に見たその他の作品をダイジェストで。

札幌芸術の森には有島武郎旧邸が移築されており、記念館になっている。2階で鈴木昭男の資料展示があったのだが、そこへ向かう階段の踊り場に、木田金次郎の絵が。昨日見なければ、立ち止まることはなかっただろう

札幌芸術の森には有島武郎旧邸が移築されており、記念館になっている。2階で鈴木昭男の資料展示があったのだが、そこへ向かう階段の踊り場に、木田金次郎の絵が。昨日見なければ、立ち止まることはなかっただろう

さわひらき「うろ・うろ・うろ」は、梅田哲也との協働による映像作品と言える。この作家に特徴的な、空想的なシルエットは影を潜め、リアルな「人間」が、しかし蜃気楼のように映り込む

まちなかエリアにあるさわひらき「うろ・うろ・うろ」は、梅田哲也との協働による映像作品と言える。この作家に特徴的な、空想的なシルエットは影を潜め、リアルな「人間」が、しかし蜃気楼のように映り込む

梅田哲也による「りんご」は、元りんご倉庫の床下でたゆたう水を電球が照らし、床の上では天井からの水滴を光の球体が受けとめる。夜遅くまでやっていることも含め、すごくいい展示なんだけれども、「過去に使われていた建物」「光/暗闇」、そして「水」というのは他の作家でも見たし、食傷気味というか、お腹いっぱいというか、仕方ないのか、どうなのか

その他のエリアにある梅田哲也による「りんご」は、元りんご倉庫の床下でたゆたう水を電球が照らし、床の上では天井からの水滴を光の球体が受けとめる。夜遅くまでやっていることも含め、すごくいい展示なんだけれども、「過去に使われていた建物」「光/闇」、そして「水」というのは他の作家でも見たし、食傷気味というか、お腹いっぱいというか、仕方ないのか、どうなのか

午前中は円山動物園に。クワクボリョウタの展示を見に行ったが、あいにく調整中

午前中は円山動物園に。クワクボリョウタの展示を見に行ったが、あいにく調整中

というわけで、動物を見る。昨日は木彫りで見たが今日は実物。クマはうろうろうろと歩いていて、いつでも観客の前に姿を現わすわけではない。貼り紙には、クマが見られない場合「時間をおいてまたあらためて見にくるとよいでしょう」と書かれ、「また、うしろの展示パネルを読破しているうちにいつのまにか姿を現しているかも」とユーモラスに書き添えられていた

というわけで、動物を見る。昨日は木彫りで見たが今日は実物。ヒグマはうろうろうろと歩いていて、いつでも観客の前に姿を現わすわけではない。貼り紙には、ヒグマが見られない場合「時間をおいてまたあらためて見にくるとよいでしょう」と書かれ、「また、うしろの展示パネルを読破しているうちにいつのまにか姿を現しているかも」とユーモラスに書き添えられていた

時間をおいて、クワクボ展へ。今度は見られました。静かに動く、玩具の列車が放つ小さな光。その光による影絵の世界。意外な日用品による幻想世界

時間をおいて、クワクボ展へ。今度は見られました。静かに動く、玩具の列車が放つ小さな光。その光による影絵の世界。意外な日用品による幻想世界

動物園から歩いて、札幌宮の森美術館の石川直樹展に向かう。北海道及び北方を撮った写真をまとめて見ることができる(これは知床半島の連作)。一見普通の写真展のように始まるが、違った。アヨロラボラトリー(立石信一、国松希根太)とのコラボレーションの展示を含んでいた。そこがいい

動物園から歩いて、札幌宮の森美術館の石川直樹展に向かう。北海道及び北方を撮った写真をまとめて見ることができる(これは知床半島の連作)。一見普通の写真展のように始まるが、違った。アヨロラボラトリー(立石信一、国松希根太)とのコラボレーションの展示を含んでいた。そこがいい

そのコラボレーション部分。左は、約4万年前の火山によってそのまま「パックされ、熱で蒸し焼きになったもの」。1984年に発掘された炭化木。右の、くりぬかれた木の立体は国松希根太「WORMHOLE」(2017)。奥は国松のアクリル画

そのコラボレーション部分。左は、約4万年前の火山によってそのまま「パックされ、熱で蒸し焼きになったもの」。1984年に発掘された炭化木。右の、くりぬかれた木の立体は国松希根太「WORMHOLE」(2017)。万単位の時間が、このくりぬかれた「穴」に吸い込まれていくようだ。 同行の写真家高橋氏も「いいですねえ」と感動した様子。しきりに激写していた。奥は国松のアクリル画

ところで札幌芸術の森美術館のクリスチャン・マークレー展のところで書きそびれたのだが、展示の最後にはアーカイブルームがあって、ここはさっさと見ることができない。過去のライブ映像や写真などの資料が展示されているからである。「じっくりSIAF、大友ゲストディレクターの『サブストーリー』で巡る3日間」の鑑賞所要時間が他のプランと比べて「大幅にアップ」していたのは(125分)、マークレーとの出会いによって、「即興」の世界へと深く入り込んでいった大友良英の人生とも深く関わるこのアーカイブルームを「じっくり」見てほしいためだろうと思う

ところで札幌芸術の森美術館のクリスチャン・マークレーの展示のところで書きそびれたのだが、展示の最後にはアーカイブルームがあって、ここはさっさと見ることができない。過去のライブ映像や写真などの資料が展示されているからである。「じっくりSIAF、大友ゲストディレクターの『サブストーリー』で巡る3日間」の鑑賞所要時間が他のプランと比べて「大幅にアップ」していたのは(125分)、マークレーとの出会いによって、「即興」の世界へと深く入り込んでいった大友良英の人生とも深く関わるこのアーカイブルームを「じっくり」見てほしいためだろうと思う

(次回に続く)

 

札幌国際芸術祭2017
http://siaf.jp
取材・文:福永 信(ふくなが・しん)
1972年生まれ。小説家。『アクロバット前夜』(2001/新装版『アクロバット前夜90°』2009)、『あっぷあっぷ』(2004/村瀬恭子との共著)『コップとコッペパンとペン』(2007)、『星座から見た地球』(2010)、『一一一一一』(2011)、『こんにちは美術』(2012/編著)、『三姉妹とその友達』(2013)、『星座と文学』(2014)、『本とその周辺をめぐる、6か月とちょっとの旅』(2016/編集)、『小説の家』(2016/編集)、『カワイオカムラ ムード・ホール』(2017/編集)。2015年、第5回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。
写真:高橋 宗正(たかはし・むねまさ)
1980年生まれ。写真家。『スカイフィッシュ』(2010)、『津波、写真、それから』(2014)、『石をつむ』(2015)、『Birds on the Heads / Bodies in the Dark』(2016)。2010年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。2002年、「キヤノン写真新世紀」優秀賞を写真ユニットSABAにて受賞。2008年、「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞。