アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#46
2017.03

しくみをつくり、まちを動かす

柳原照弘さんと有田・2016/ project 新たな展開
4)振り返りつつ、これからを始める2
宝泉窯、2016 株式会社監査役 原田元さん

原田元さんは、1616/ arita japanにも参加した経験豊かな窯元である。2016 株式会社の役員でもあり、全体を俯瞰しながら、これまでを見てきた。特に、デザイナーのアイデアが実際に製品化できるのか、そしてそれを量産できるかどうかを見きわめてきたのだった。

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———400点近くあるなかで、開発するときにむずかしいな、商品化できるかなというのもありましたし、現在は量産の問題はあるものの、ちゃんと商品になって、ショップやショールームもできた。組織もできましたし。
このプロジェクトのなかで、会社やショールームをつくったことは県の想定外なんですよ。でも、ひとつのブランドをやるためには拠点がいると。そのためにはちゃんとつくって、会社にしないと、と我々が自主的にやったんですね。

プロジェクトを進めるにあたって、8つの商社と窯元は同盟的な関係を結び、ひとつの会社組織を立ち上げた。「2016 株式会社」である。ブランドのプロモーションを行い、商品を流通させるだけでなく、有田焼全体の復興とイノベーションの継続をはかるものだ。
有田焼は分業制で、これまで窯元はそれぞれの技術を門外不出としてきた。今なお多くの窯元はそうなのだが、2016/ のチームは、そうした関係性も変えてきたのである。商品開発のときからずっと、互いに教え合い、協力し合っている。

———デザイナーが要求するクオリティを、どうしたら早く正確にできるかを見つけないといけない。量産のノウハウは各社の努力ですが、2016/ の窯元は、そういう技術的な共有をしようと。お互いうまくいっていない時は教え合ったり、知恵を出し合うんですよ。色の調合でも何でも。ある意味トップシークレットなんですが、何も隠し事なく、みなさんオープンしています。
ただ盲点は、やりすぎると甘えになることですね。自分のものにするには自分で考えないと。まずやってみて、それでもできないと真剣な顔で聞きにきたら教えるようにしないと、何かトラブルがあったときに対処できない。甘えにならない感じで、お互いを共有させるんです。

今後の量産体制においても、2016/ の窯元たちは仲間であり、ある意味運命共同体でもある。小さな個々を守るのではなく、互いのスキルを学び合い共有することで、もっと大きな利益や恩恵を受けられて、やがてはまちの良い変化にもつながる。日本各地の伝統産業が再生していくために、その関係性のありかたはとても役立つと思うのだ。
今の時代は、すぐに結果を求められる。特に、大きな注目を集め、予算のついたプロジェクトであればなおさらだ。そのプレッシャーのなかで、原田さんはつくり手として、これからの展開を見すえている。

———400年の記念事業は県としては終わったんです。でも今からですよ、401年目が大事。事業全体に県が23億使ったので、新聞やテレビの方たちと話をすると、400年をやって売り上げは上がりましたか? と、必ずそこからくるんです。去年まで一生懸命ものをつくった、そして発表した。だから、売り上げは今年からなんですね。次の400年をつくるために、徐々に右肩上がりを目指しています。
出だしは非常にいいので、後はどれだけブランドを浸透させていくか。今はデザイナー系のお店との取引が主流ですが、レストラン向けにすれば、別の商品が売れるかもしれない。これからは、個別のデザインのブランディングをしていけたらという感じですね。でも非常に楽しいですよ、あれだけのものがありますから。マグカップやコーヒーポットも何種類もあるから、あのなかでマグカップコレクションとかできますし。そういういろんな打ち出し方ができるんです。

窯元のばらつきをできるだけ少なくし、安定して量産できる体制を整えられたら、さまざまな軸をつくった展開ができる。原田さんはものづくりのクオリティを保つことの先を、楽しみながら考えている。

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売り物にならない商品はチェックして、何がよくないのかを徹底的に研究する / 朗らかで茶目っ気ある原田さんといると笑いが絶えない

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