2) 2016/のデビュー2
有田のショップ兼ショールーム、西武・そごうでの販売開始
ミラノとアムステルダムでは、2016/ の関係者も手応えを感じていた。有田焼創業400年プロジェクトの担当者だった佐賀県庁の鷲崎和徳さんは、予想をはるかに上回る反応に驚いたという。
———ミラノでは、有田の産地を含めたPRができたと思っています。『Wallpaper*』『エルデコ』ですとか、メディアにもたくさん載せていただきましたし、世界中のデザイナーさんなどの声をもとに、2016 株式会社は店舗の開設や、商品を観覧できる準備をさせていただいてきました。
ライクスミュージアムのほうは、オープニングレセプションがものすごく盛況で。オランダのメディアのプレスの方もたくさん呼んでいただいて、プロジェクトブックなどで関わってもらったオランダのクリエイターの方々もいらして。まさかこれだけ集まるとは思っていなかったですね。
ちなみに、プロジェクトブックはイギリスの出版社PHAIDONから、サローネに出展するタイミングに合わせて刊行した。柳原さんの「日本らしさをあえて消し、まったく国籍の見えない、セラミックの本としてきれいなもの」を目指して制作するというコンセプトは、このプロジェクトをよくあらわしている。ものづくりの過程を収めつつ、その魅力を伝える書籍は、ミラノやライクスミュージアムでも活用されたのだった。
柳原さんと深い信頼関係を結び、プロジェクトを主導してきた商社・百田陶園の百田憲由さんは、ライクスミュージアムでかけられた言葉にほっとした。
———ライクスミュージアムってすごいものばかりじゃないですか。歴史的な絵の大作とか、昔の古美術とか。そうしたものと現代の2016/ が同じ空間にあるんです。かたや何十億の美術品と、スタンダードな数千のプロダクトですよ。だから、大丈夫かなって思ったわけですが、オープニングのあいさつで、有田の400年のたしかな技術、このクオリティがあるからいいんだと評価してくださったときに、すごいほめ言葉をいただいたなと思いました。
メディアでの露出は欧米で70にのぼったという。デザインやライフスタイル関連誌などを中心に日本のメディアにも多数取り上げられ、国内外で話題性が増すなかで、プロジェクトは次の段階を迎える。
2016年9月には、2016/ のショールーム&ショップを有田焼卸団地にオープンした。「都心ではできないことをした」と柳原さんが言うとおり、広いスペースの壁一面に棚をしつらえ、スタンダードシリーズのアイテムすべてをディスプレイする空間をつくった。棚の前に置いた大きなテーブルでは、商品を自由にさわって使い勝手を試したり、コーディネイトを考えたりできる。
フラッグシップショップが地元で立ち上がった翌10月。ついに2016/ が国内でデビューし、世界に先駆けて販売が始まった。場所は東京の百貨店、西武・そごう渋谷店。ここでもまた、ハイブランドしかディスプレイしないようなウィンドウを2016/ が飾り、池袋店や横浜店でも同時開催するなど、前例のない取り扱いであった。
絵に描いたような順風満帆の滑り出しだが、柳原さんは有田の方々とともに喜び合いながらも、淡々と冷静である。そして、デザイン誌をはじめ、数々の媒体で取り上げられたなかで、ビジネス雑誌で評価されたことがとてもよかったと思っている。
———デザインの雑誌や本に載るよりも、有田の場合は経済の立て直しですから。大きく言うと、クールジャパンのようなかたちで、日本を外に出していくなかで失敗もあったと思うんですが、「日本を出す」という考えをやめて、最初からインターナショナルな考えで境界をなくすという取り組みをしたのがよかったと思っています。最初からそれがなかったからこそ、世界に出ていくことができたし、評価をしていただけることになったので。