2)言葉で輪郭をとる
3.11オモイデアーカイブ 佐藤正実さん1
アーカイヴのありかたを考えながら、せんだいメディアテークと協働していくつかのプロジェクトを手がけているひとがいる。佐藤正実さんだ。
佐藤さんは、仙台のまちの記憶を集め、発信をつづけている。”仙台の原風景を観る、知る”フリーペーパー『風の時』を編集し、”昭和時代の仙台をアーカイヴし活用する”NPO法人20世紀アーカイブ仙台の副理事長をつとめる。そして、”3.11からはじめる、まちと人のオモイデをキロクする” 3.11オモイデアーカイブの代表でもある。
佐藤さんのいう「利活用」は、写真だけではわからないことを、語りや対話によってイメージを膨らませ、伝えられるようにするものだ。
考えるテーブルの企画として、佐藤さんは3.11定点観測写真アーカイブ・プロジェクト公開サロン「みつづける、あの日からの風景」を続けている。記録写真を並べ、その撮影者に来てもらって、佐藤さんや参加者と対話するイベントで、先の美容師の写真もそこで取り上げられた。撮影者によれば、停電して店内が暗かったので、外に出てカットを最後までした、ということだった。サイレンが鳴り響くなかで、カットを続けていた、と。何でも言葉で説明すればいいわけではないが、言葉があって初めて理解できる、共有できることもある。
佐藤さんは他にも、来場者参加型のプロジェクトをいくつか手がけている。そのひとつが「どこコレ?ーおしえてください昭和のセンダイー」だ。収集された写真にのなかは、いつ、どこで撮ったのかわからないものが数多くある。それを展示して、来場者に場所を教えてもらおうと企画した。(協働:せんだいメディアテーク)
———会場では、来場者が思ったことを付箋で貼っていけるようにしたんですが、ここじゃないかと付箋が貼られて、それに対してここじゃないですよと貼ってくれたりもして。年配の方は記憶をたどって貼ってくれるし、若いひとは写真からイメージして調査を始めるんです。新聞を読んだり、現地に行ったり。映画好きのひとは映画の看板が写っていたら何年の映画かを調べてきて、車好きのひとは車が写ってたら何年のものかを教えてくれて。参加者がどんどん増えていき、楽しんでくれるんです。
最終的には、地図が描けた段階で、写真に1本のキャプションをつけ、確定ハンコを押して完了します。
2013年に始めて以来、これまで5回開催してきたが、311枚展示したうち248枚が確定できたという。市民が撮影した、昭和のスナップショットの約8割が、市民によって場所が明らかになったのだから、すごいことだ。市民それぞれの記憶をむすぶことで、まちの記憶が呼び覚まされたかのようでもある。
そしてもうひとつ、展示の「場」のありようも独特だった。若者から80代まで、さまざまなひとが世代を超えて、1枚の写真の前で話し合う。佐藤さんにとっても、思いもよらない光景だった。
佐藤さんはさらに、「どこコレ?」から発想した新しいプロジェクトを始めた。「3月12日はじまりのごはん – いつ、どこでなにたべた?–」は、誰もが参加しやすい、親しみある企画だ。(協働:せんだいメディアテーク)
———震災のことになるとみんな遠慮がちで、特に津波被災エリアの方のことを思えば、自分は大したことないっておっしゃる方も多いんです。でもあの3分間の揺れを体験して、余震が何度もあって恐怖感もあったのに、大したことないって言うこと自体おかしいんです。語っていいんですよ、と言っても、遠慮してしまって語れない。
あるとき、「公開サロン」で、震災の写真を提供してくれたひとと話していたら、食べ物のことだと話しやすいのがわかったんです。もしかしたら、震災が起こった後、最初に口にしたものはなんなのかという問いはいけるんじゃないか、と始めたのが「はじまりのごはん」です。
この企画は、食べもの、炊き出しや支援物資が並んでいるようす、コンビニや個人商店などの写真を展示して、「どこコレ?」と同じように付箋を貼っていくんですね。自分の体験を口にはできないけど、書くだけならできるひとが、体験に近い写真に言葉を重ねていくんです。
「どこコレ?」は、写真を介してさまざまなやりとりを重ねて、最終的に1本のキャプションに集約されるのに対して、「はじまりのごはん」は、その写真に近い体験をしたひとたちの言葉が連なってゆく。対照的な展示だけれど、いずれも一枚の写真を前に、ひとびとの言葉が行き交い、1枚のスナップの持つイメージが広がり、いくつもの意味を持ちはじめる。