アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#44
2016.10

本、言葉、アーカイヴ

前編 これからを「本」でひらく 宮城・仙台、石巻
2)「Book! Book!Sendai」その後 情報紙『Diary』
仙台「book cafe 火星の庭」店主 前野久美子さん2

B!B!S発行の情報紙『Diary』は2015年、メディアテーク経由で文化庁の予算もつき、1年の準備期間を経て、部数1万部で刊行した。内容的には、仙台の文化的な特性を、前野さんが以前住んでいたドイツでの経験を生かして提示しようというものだった。

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———ドイツに2年間住んでいたんですが、ドイツではドラム缶3つぐらい重ねて、オペラハウスから小さなカフェのイベントまで2ヵ月くらいの情報を網羅したポスターが角角に立っているんですよ。横断歩道とかで、信号待ちしながらドラム缶を見て、こんなのやってるって思ったら、仕事帰りなどにそのまま行くんです。市電の停留所とかにもあって。数分間の待ち時間に、まちの催しが目につくところにあるんですよね。住んでいるときに、それでとても助かって。
仙台は激しい空襲があって、まちなかが壊滅したんです。昭和20年7月10日かな。だから、城下町でありながら歴史的建造物も残っていなくて、まちを歩いていてもちょっとピカピカしていて、旅行者にとってひっかかりのないまちといわれます。でも、なかに入ってみると、ものすごくイベントの多いまちなんですよ。市民活動も200とかあるし、音楽、映画、演劇とそれぞれさかんで。でも、そんな活動は旅行者には全然見えてこないから、ドイツで見たようなポスター的な情報があるといいなと思って。そうしないと、ひとの動線も決まってきちゃって、地方都市にありがちですが、みんな固まってしまって連携しにくいので、それがもったいないな、と。

まちで何が起こっているか、ひとめで把握できるもの。そして、まちに動きが生まれるきっかけとなるもの。『Diary』を通して、前野さんたちは仙台の文化のありようを、ある意味地図のように見せようとしたのだった。

———イベントのない日も、空欄で日にちを載せたかったんです。そこに自分の予定を書き込んでもらいたかった。ちょっと意地悪なんですけど、これを見て、それぞれのイベントに行ってほしいという気持ちよりは、あくまでもドキュメントとして捉えていて。「2015年6月の仙台」というのをB!B!Sが見た、編集した目ということで、ひとつの仙台観みたいなものですね。
実はWebアドレスとか載せてないんですよ。ネットで何でも調べられることへのちょっとしたアンチというか、あまりに親切すぎて、主体性が奪われる感じがいやで。ものを楽しむときって、全部を用意されてどうぞってご馳走みたいに渡されるより、こっちが前のめりになって、双方向の求める感じがないと、面白さって全然変わってくるんじゃないかな。

さらには、イベントカレンダーのようでありながら、よく見るとイベントの内容についてはまったくふれていない。そこでどんなことが起こるのか、想像する余地があるのもいい。

———もうひとつ、これは範囲が仙台だけじゃなくて宮城全体なんです。宮城は、東北全体もそうですけど仙台の一極集中で、震災後それが甚だしくなっていて。仙台だけが地価が上がって人口が増え、ひとが集まっている。東北を網羅することはできないけど、宮城全体にすることで、仙台に来るひとが塩竈や石巻に行ったりして、動きが公平になるといいなって思って。実際に調べると面白いことやってるんですよね。

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原発に関するイベントなどもB!B!Sの責任で掲載した

刊行してからは、2ヵ月に1回、編集・発行を続けた。宮城県全体の情報となると2ヵ月で100件にのぼり、それを集めるだけでも大変なのに、さらに確認・構成作業となると、大変な労力が必要だった。丸1年かかるB!B!Sのイベント準備と両立することは難しい。

前野さんと武田さんは話し合った末、イベントはいったん中止して、『Diary』を発行していこうと決めた。しかし、この先には思わぬ展開が待っていた。